パラグラフライティングの作法 -書き手にもメリットのある文配置ルール-

研究技術解説

パラグラフライティングは,難解な内容を分かりやすく説明するために必須の記述法であり,読み手だけでなく,書き手にもメリットがあります.ポイントは「各段落の先頭行だけを抜き出せば正しい要約ができあがるようにする」ことです.この記事では,書き方の具体例を挙げながら,パラグラフライティングの概要とメリットを説明した後,守るべき5つのルールを紹介します.

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論文はパラグラフライティングが基本!

パラグラフライティングは,文章のまとまりを作るルールと,各まとまりの中での文の配置のルールに則って文を書く方法です.そのルールを簡単に言えば,「共通の話題で括れる内容は一つのまとまりとする」というものと,「各まとまりの先頭には最も重要な文を置き,それ以後にはその文の補足説明のための文を置く」というものです.このまとまりのことをパラグラフと呼び,各パラグラフの先頭の文のことをトピックセンテンス(話題文)と呼びます.

このような形式で書くのは,論文を書く上での共通ルールです.書きたいことを勝手に好きな場所に書くのではだめですよ,ということです.論文で説明される内容は,意味関係が複雑で,論理構造も難解であるため,少しでも読みやすくするためにこのような共通ルールを守る必要があるのです.下に,ももたろうの話をモチーフにした創作論文の冒頭部分をパラグラフライティングで書いた例を挙げます.

パラグラフライティングで書いている例(先頭行を抜き出せば要約が完成):
度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的な対策が必要である.
過去30年に渡って続いてきた鬼の襲来の規模にはさほどの変化はないものの,頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えるに至った.村人たちが懸命に蓄えた食料や家財道具は,襲来の度に持ち去られるか,もしくは破壊される.襲来後の再備蓄や修理の作業はもはや徒労でしかなく,村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.このような状況では,鬼襲来への抜本的な対策なしには,村の存続は不可能である.
 一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.その理由の一つは,鬼たちに油断が蔓延してきていることである.村人達の抵抗が年々弱まっているためか,襲来に来る鬼の表情からは深刻さが消え,以前は驚異的であった統率も今はないに等しい.もう一つの理由は,これまでは不明であった鬼の本拠地が特定され,到達ルートが見出されたことである.鬼たちに油断がある今,この到達ルートを使ってこちらから遠征を仕掛けることができれば,大きな反撃を加えることができるであろう.

上記の例で,太字にしている先頭文がトピックセンテンスです.各パラグラフにおいて,トピックセンテンス以後の文章はトピックセンテンスの補足説明に終始していることを確認してください.上の文章を要約しなさい,と言われても,簡単にできますよね.先頭文をただくっつければそれで正しい要約ができあがります.

パラグラフライティングのメリット

パラグラフライティングで書かれた文章の最大のメリットは、要約が簡単なので効率的に読むことができるということです。各パラグラフの先頭文だけを目でなぞるだけで,話のあらすじ(話題展開)と,どのパラグラフにどの話題の説明がなされているのか,という話の構造を把握することができるのです.上記の例で,太字の部分だけを読んでみてください.「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的な対策が必要である.一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.」という話のあらすじがすぐに理解できると思います.このあらすじに納得できればそれ以上読まないでおくという判断ができますよね.あるいは,例えば後半の「状況打開の好機を掴んでいる」という内容が気になるようなら,第2パラグラフだけを読めばそれで済みます.

ところが,これがパラグラフライティングのルールに則って書かれていなければどうなるでしょうか.先ほど挙げた例の文の順とまとまりを多少変えた下の例を見てください.全ての文を読めばなんとなく言いたいことはわかるものの,話のあらすじが掴みにくい文章になっていることがわかるかと思います.特に,「村は状況打開の好機を掴んでいる」という情報は非常に重要であるにも関わらず,文字に埋もれてしまって存在感が霞んでしまっています.要約しなさい,と言われたときにこの情報を見つけ出すのが大変で,見逃してしまいそうですね.

パラグラフライティングで書いていない悪例(要約しづらい):
過去30年に渡って続いてきた鬼の襲来の規模にはさほどの変化はないものの,頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えるに至った.村人たちが懸命に蓄えた食料や家財道具は,襲来の度に持ち去られるか,もしくは破壊される.襲来後の再備蓄や修理の作業はもはや徒労でしかなく,村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれている.
このような状況では,鬼襲来への抜本的な対策なしには,村の存続は不可能である.一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.その理由の一つは,鬼たちに油断が蔓延してきていることである.村人達の抵抗が年々弱まっているためか,襲来に来る鬼の表情からは深刻さが消え,以前は驚異的であった統率も今はないに等しい.
もう一つの理由は,これまでは不明であった鬼の本拠地が特定され,到達ルートが見出されたことである.鬼たちに油断がある今,この到達ルートを使ってこちらから遠征を仕掛けることができれば,大きな反撃を加えることができるであろう.

パラグラフライティングのもう一つのメリットは、何をどこに書くべきかが自動的に決まるため,書く方にとっても楽だということです.どこに何を書いても自由だと,その配置をどうするべきかに悩んでしまって,時間がかかってしまいます.「どのような内容をどの順で説明するのか」という話題展開の概略(アウトライン)さえ先に決めてしまえば,パラグラフの数と,そのパラグラフの先頭文はほぼ自動的に決まります.あとは,どんな補足説明を加えれば,その先頭文がよりわかりやすく,納得できるものになるのかを検討し,随時後ろに付け加えていけばよいのです.

例えば,「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的な対策が必要である.一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.」を話題展開のアウトラインとして定めたとします.そうしたら,まずはこれをいくつの話題に分解するかを定めます.今回の例では分解する数を決めるのにいくつか選択肢があります.最初に挙げた例では2つの話題に分けていますが,例えば,「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊している」「窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的対策が必要である」「一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる」の3つにしてもよいですし,2番目の話題をさらに前後半で分割して合計4つの話題にしても構いません.これらの文を先頭文としてパラグラフを作り,それぞれに補足説明を加えていったときに,あまりにも文章が長くなるようなら話題文を分割して作り直せばよいですし,短すぎるようなら,前後のどちらかの話題文と合体させて作り直せばよいでしょう(単純に改行を無くしてくっつければいいわけじゃない理由はわかりますよね).

文の配置を決めるための5つのルール

ここまででパラグラフライティングのルールについて解説してきましたが,おさらいもかねて,5つのルールとして整理しておきます.各ルールが守られていない具体例も挙げます.

ルール①各パラグラフで扱う話題は1つに

同じパラグラフ内に違う話題の内容を混ぜてはいけません.先頭文と違う話題に移るようであれば,そこでパラグラフを分割しましょう.もしくは,そのパラグラフに含まれている全ての話題の要約になるように,先頭文を改善しましょう.「このパラグラフでは一体何について説明しているの?」という質問に対して自信を持って一言で答えられないようであれば、このルールが十分に守れていない可能性があります.

ルール①が守られていない例(最終文と先頭文の話題が違う):
度重なる鬼の襲来で村は疲弊している.襲来頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えた.村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.一方で,鬼たちは油断しているようだ.鬼の表情からは深刻さが消えている.

話題文を改善した例:
度重なる鬼の襲来で村は疲弊している一方で,鬼たちは油断しているようだ.襲来頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えた.村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.一方で,鬼の表情からは深刻さが消えているため,油断していると感じる村人は増えている.

ルール➁話題の要約文はパラグラフの先頭に!

各パラグラフの先頭には、そのパラグラフで扱う話題において言いたい内容を要約した文章を置きましょう.1つの文章としてパラグラフの内容を要約できないのであれば,複数の話題が混ざっている可能性があるので,その場合はパラグラフを分割することも検討しましょう.「この段落で一番大事な文章はどれか?」と聞かれたときに,自信を持って先頭文を指せるようにしておきましょう.

ルール➁が守られていない例(最終行を先頭に置くべき例):
過去30年に渡る鬼の襲来規模にはさほどの変化はないものの,頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えるに至った.村人たちが懸命に蓄えた食料や家財道具は,襲来の度に持ち去られるか,もしくは破壊される.襲来後の再備蓄や修理の作業はもはや徒労でしかなく,村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.度重なる鬼の襲来で村は疲弊し,窮地に追い込まれている.

ルール③先頭の文だけであらすじを成立させる!

各パラグラフの話題文は,前後のパラグラフの話題文と話の繋がりがあるものでなければいけません.「このパラグラフを削除してもいいか?」と聞かれた場合に,削除をしてはならない理由を明確に説明できるかどうか,また「各パラグラフの先頭文しか私は見ません」と相手に言われた場合でも不安なく承知できるかどうかが、このルールが守れているかを確認する方法です.このルールが守られていない例は,「パラグラフライティングで書いていない悪例」として先に挙げています.

ルール➃話題文を補助する文だけをそのパラグラフ内に!

話題文だけでも話のあらすじを理解させることはできますが,それだけでは意味が曖昧で、イメージが沸きにくく,また根拠に欠けるものになりかねません.そのため,話題文のより詳細な言い換え,具体例,根拠など,各話題を補佐する役割を持つ文章を話題文の後に続けて書きましょう.「この文は何のために書いたの?」と聞かれても困らないよう,明確な役割を持たせて補助文を配置しましょう.言い換えれば,話題文を補助しない文は,そのパラグラフにおいてはいけない,ということになります.

ルール➃が守られていない例(最後の一文は不要):
度重なる鬼の襲来で村は疲弊している.襲来頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えた.村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.鬼たちの特徴は,頭に角が生えており,割と肌の露出が多いことである.

ルール➄適切に接続語を置く!

上記のルールを守って書いていれば,話題文同士,そして話題文と補助文の間には必ず関係性が存在します.この関係性を明示する役割を果たすのが接続語であり,適切に置かれた場合には読者が論文の論理構造を把握するための明快な助けとなりえます.例えば,「言い換えると」「すわなち」「例えば」「この理由は」などです.もし十分な考えなしに曖昧で不適当な接続語を置いてしまえば,読者の誤った解釈を誘発し,混乱を招きます.なぜその接続語を選んだのかの明快な理由が説明できないのであれば,不用意に接続語を置くべきではありません.

ルール➄が守られていない例(太字の接続語が不適当):
一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.例えば,鬼たちに油断が蔓延してきている.村人達の抵抗が年々弱まっているためか,襲来に来る鬼の表情からは深刻さが消え,以前は驚異的であった統率も今はないに等しい.また,これまでは不明であった鬼の本拠地が特定され,到達ルートが見出された.鬼たちに油断がある今,この到達ルートを使ってこちらから遠征を仕掛けることができれば,大きな反撃を加えることができるであろう.

まとめ

上記の5つのルールに則った文章を書くためには,どのような話題展開で自分の言いたいことを伝えるか,という話のあらすじ,すなわち要約文となりうるアウトラインが事前にできあがっていることが必要です.いきなり長い文章を書き始めるのではなく,アウトラインから決めて,パラグラフの大枠を定めるようにするとよいでしょう.アウトラインからパラグラフを作っていく工程のイメージはこちらの記事「パラグラフライティングは絵を描くように」で解説しています.パラグラフライティングの具体例はこちらの記事「『未来のアンドロイド研究』をパラグラフライティングで書く」で紹介しています.

以下のサイトを参考にしました.

  1. パラグラフの中の構造・トピックセンテンス

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