究発表における5つの戦略目標

研究技術解説

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研究発表を成功させるためには,発表で達成すべき戦略目標を明確に意識して,首尾一貫した考え方と取り組みを効果的なタイミングで順序立てて紹介することが大切です.この記事では,基本となる5つの目標についてまとめます.

この戦略目標の順は,研究発表中に先に達成すべき時間的順序でもあり,また新しく研究を始めたときに達成していくべき順序でもあります.第一目標から順に達成できるようになることを目指して研究を進め,その達成の暁には,この順で発表を行うとよいでしょう.

第一目標「現状と理想のギャップの指摘で問題意識を共有する」

この目標の達成が何より最初に大事です.問題意識が共有されていなければ,研究の価値も,アイデアのうまさも,結果の重要性も理解されず,「そもそも何のためにやっているの?」と思われてしまう恐れがあるからです.問題意識に共感してもらうためには,「こうであるべきなのに,今はまだこの程度だ」という現状と理想のギャップを明確に示すことと,そのギャップを埋めるために解決しなければいけない問題を示すことが大切です.「確かにそうなったらいいね!」「現状がその程度なら,確かにその問題は解決すべきだ!」と思ってもらええば成功です.(1)現状どうなっているのか,また,(2)どうなれば理想なのか,(3)何の問題を解くことが必要なのか,を具体的に,かつ整理して紹介しましょう.

第二目標「問題解決のためのアイデアのうまさを納得させる」

問題意識が共有された瞬間が,「こうすれば解決できるのではないか」というアイデアをぶつけるチャンスです.「そのアイデアは妥当だ!うまくいきそうだね!」「その発想はなかったが,うまい!」と思ってもらえれば成功です.実際にどうやるかといった詳細の説明はこの時点では省き,アイデアは何か,そのアイデアでなぜ問題が解決されそうなのか,ということが聞いたとたんにわかる単純な短い文言として紹介しましょう.

そのアイデアがもし他の研究で採用されていたアイデアであれば,その研究を引用した上で,その研究との違いを明確にすることが必要です.アイデアの適用先が違うのか,もしくはアイデアの実現方法に修正を加えるのか,といったことです.もしアイデアが独自のものであれば,他の研究で採用されていたアイデアでは何がまずかったのか,そして提案するアイデアはそれらよりどのように優れているのかを説明するとよいでしょう.

第一,第二目標が達成できたら,ようやく研究目的を明確に示すことができます.「~の採用による~が実現できる~の開発」「~による~の改善効果の実験的評価」「~による~の改善」など,言い方はさまざまありえますが,「アイデアによって問題がどこまで解決されるかを確かめる」という本来の目的がしっかりと伝わる文言として研究目的を明示しましょう.

第三目標「アイデアの実現方法を具体的に示して信頼を得る」

アイデアのうまさを納得してもらえたら,次に目指すのは「そのアイデア,本当に実現できるの?実際にはどうやるの?」という疑問の払拭です.どのような技術と手順によってアイデアが確実に実施されるかを丁寧に説明しましょう.ここの説明が不十分だと,「本当は実現できていないんじゃないのか?」「アイデアのよさが反映されていないんじゃないか?」という不信感に繋がってしまいます.

第四目標「問題解決の達成度を明確に示して安心させる」

上記三つの目標が達成されたとき,聴衆の頭にあるのは,「一見よさそうに思えたこのアイデアはどれだけ問題の解決に貢献しただろうか?」という疑問です.一部の聴衆はこの疑問に対する答えを早く聞きたくてうずうずしていることでしょう.したがって,次の目標はこの疑問にいち早く明確に答えることです.後回しにせず,最短でこの答えの紹介ができる説明を検討しましょう.最低限必要な説明材料は,解決の度合いを評価するための方法と,その評価軸の上での定量的な数値です.これらの紹介スライドを一目見るだけで,「なるほど,このくらいの効果があったのか!」あるいは「ここまでわかったのか!」と聴衆が判断できるような資料を作りましょう.ここが納得できた時点で聴衆は目前で行われている発表に対して非常に大きな安心感を得ます.

第五目標「上記の過程で生じる疑問に答えて満足させる」

上記第四目標まで達成できればひとまず十分ですが,さらなる目標は,聴衆の頭に浮かんだであろう疑問に対する答えや発表者の考えを時間が許す限り紹介することです.聴衆の各々が「今回達成できなかった部分を解決するにはどうしたらよいのか」「期待通りの解決がなされなかった理由は何か」「得られた結果から,何か別の新しいことは見つかったのか」「アイデアの実現方法に穴はないのか」といった様々な疑問を思い浮かべていることでしょう.敢えて質疑応答に回してもよいですが,可能な限り発表時間内に疑問を解消しておけば聴衆の満足度がさらに高まることでしょう.

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