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研究発表を楽に聞く方法➁ -中盤では手法と結果のペアの構造を把握する-

研究発表を聞くのは大変で,苦痛だと感じたことはありますか?実は研究発表は,いくつかのポイントに絞って話を聞くだけで重要な部分のほとんどを楽に理解することができますこの記事では,特に研究発表の「中盤」にどのようなポイントに絞って話を聞けばよいかを解説します.

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研究発表を楽に聞く方法① -序盤で把握するのは4つだけでよい-

研究発表を聞くのは大変で,苦痛だと感じたことはありますか?実は研究発表は,いくつかのポイントに絞って話を聞くだけで重要な部分のほとんどを楽に理解することができます.途中で疲れて眠くなってしまうほど,一字一句聞き漏らさないように集中し続ける必要はないのです.この記事では,特に研究発表の「序盤」にどのようなポイントに絞って話を聞けばよいかを解説します.

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論文を効率的によむ方法 -ヒントを集めて論文のアイデンティティと地図を先読みする-

論文には難解な内容が詳細まで記載されているため,指針もなく読み進めていくだけではなかなか理解を進めることができません.効率的に読み進めていくには,論文に散りばめられている「読み解くためのヒント」を集めるための「先読み」が重要です.この記事では,そもそも何を読み解くべきかを紹介したうえで,どのようなヒントがどこにあり,またそれによって何をどう読み解いていけばよいかを解説します. まず読み解くべきは論文の「アイデンティティ」と「地図」 論文を最初に読むときに読み解くべきは,その論文を他とは違うものたらしめている「論文のアイデンティティ」と,その論文を読む際に迷わずに効率的に読んで回るための「論文の地図」の2つです.「アイデンティティ」というのは,論文の肝,あるいは骨格とも呼べる「目的・方法・結果の三要素」のことです.つまり「何のために,何をして,何を得たのか」という内容です.これを把握しないことにはその論文を知っているとは言えません. 一方,「地図」というのは,論文のどの部分に概ねどのような内容が書かれているのか,という情報の配置のことです.これが最初に把握できていれば,ある部分の詳細を知る必要がでてきたときに,迷わずにそこを読みにいくことができるので,とても効率的です.最初から詳細をすべて把握しようとするのは,ある街に引っ越してきたときに街のすべての道や建物を一軒一軒端から端まで歩いて見て回るようなものなので,大変です.大体の地図を把握しておいて,行く必要ができたときに行ってみるのが楽ですよね.それと同じです. 論文には読み解くためのヒントが満ち溢れている 実は論文というのは,この「アイデンティティ」と「地図」が把握しやすいような工夫で溢れています.この工夫を知っていれば,読み解くためのヒントを効率的に集めることができます.逆に言えば,知らないと大変な苦労をします.その工夫がなされているのは,①論文タイトル,➁アブストラクト,➂セクションの見出し,④図表,➄結論のセクションの1段落目,⑥各段落の一文目,の部分です.この順でヒントを集めていくのがよいでしょう.具体的にどうやって読み解くヒントを集めていくのかを順に説明していきます. ①論文タイトル 論文のタイトルは,まだその論文を読んだことがない人にその論文のアイデンティティを知ってもらい,読む気を起させるために筆者が考え抜いた売り文句です.ですから,論文のタイトルにはアイデンティティの構成要素である「何のために(目的)」「何をして(手法)」「何を得たか(結果)」の一部か全部が記載されている場合がほとんどです.まずはタイトルだけを見て,この三要素のどれをどのように把握できるかをじっくり考えてみましょう. 「何のために」という目的を把握するには,for,toward,toといった目的を示す言葉があるかどうかを調べてみましょう.「何をして」という手法を把握するには,研究者が主語になる動詞あるいは動名詞や,by, with, methodのような手段を示す言葉を調べるとよいです.「何を得たか」という結果を把握するには,タイトルの残りの言葉と,「何をして」の内容を両方考慮して判断するとよいでしょう. 例として,「Investigation of Causal Relationship Between Touch Sensations of Robots and Personality Impressions by Path Analysis」というタイトルについて考えてみます.この例には目的を示す言葉は含まれていませんね.どうやら「何のために」という内容は書かれていないようです.次に,「何をして」について検討します.この例には,Investigation by Path Analysis(パス解析による定量的調査)という表現が含まれていますね.これが,「何をして」の部分だと理解してよさそうです.「何を得たか」の部分は,タイトルの残りの部分であるCausal Relationship Between Touch Sensations of Robots and Personality Impressions(ロボットの触感と性格印象の因果関係)に書かれていそうですね.ただ,「因果関係を得た」というのはしっくりこないので,「定量的調査をした」という手法との組み合わせで得たものをかみ砕いて理解してみましょう.例えば,「因果関係がどうなっているのかを数値的に把握した」という風に理解できます. 次に, 「Identification and evaluation of the face system of a child android robot Affetto for surface motion design」というタイトルについて考えてみましょう.Forがありますので,「何のために」というのは「surface motion design(表面の動きの設計)のために」だとわかります.研究者が主語になる動名詞も冒頭に2つありますので,「何をして」は「Identification and evaluation(定量的調査と評価)」だとわかります.「何を得たか」は「the face system of a child android robot Affetto」という残りの部分と「何をして」の内容を両方考慮すると,「Affettoという子供アンドロイドロボットの顔システムがどうなっていてどれ程良いものなのかを数値的に把握した」だと考えられますね. ➁アブストラクト アブストラクトはタイトルよりもずっと文字数が多いのですが,その分論文のアイデンティティはしっかりと書かれています.タイトルでざっくりとアイデンティティを把握したら,それを足掛かりとしてアブストラクトを読み,自分の理解が間違っていなかったかどうかを確かめつつ,理解の不足を補っていきましょう. アブストラクトから「何のために(目的)」「何をして(手法)」「何を得たか(結果)」を読み解くうえでは,それらが書かれるときに頻繁に用いられる決まり文句を覚えてそれを探す,というやり方が役に立ちます.「何のために(目的)」が書かれるときには,「The purpose of this study...

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イントロダクション(序論)の書き方 -封じるべき「そもそも論」6選-

イントロ(序論・緒言・はじめに)を書くのはなかなかやっかいです.研究の中で実証していない「そもそも論」の論理を高い説得力をもって単純かつ明快に述べなければならないからです.この記事では,イントロの役割についておさらいした上で,イントロを書く上で必ず記載すべき6つのポイントについて紹介します. イントロの役割は先手を打って「そもそも論」を封じること イントロの大切な役割は,イントロ以降のセクションで効果的でない議論の蒸し返し,つまり「そもそも論」が起きないようにすることです.研究の手法や結果の詳細を説明しているところで,読者に「そもそも何でこんな手法を採用しているんだっけ」とか「そもそもどんな結果が得られたら嬉しいんだっけ」「そもそもこの実験は誰かがやっているんじゃないの」というそもそも論の意見を持たれてしまうと,手法や結果の説明や議論を集中した状態でちゃんと読んでもらうことが難しくなりますよね.「そもそも論」の議論はイントロでしっかり終わらせておくべきなのです. 封じるべき「そもそも論」6選 イントロですべての「そもそも論」を封じることは紙面の都合上不可能ですが,絶対に封じておくべき重要な「そもそも論」が6つあります.それは以下のものです. 前提知識:そもそも扱っている対象(主題)はどのようなものなのか.なぜそれを扱っているのか. 理想:そもそもどのような状況が理想なのか.なぜそれが理想なのか. 現状:そもそもいまどの様な状況に留まっているのか.なぜ現状では不十分なのか. 問題の構造:そもそも何が現状打開を妨げる問題になっているのか.なぜそれが解決されていなかったのか. アイデア:そもそもどのような考えで現状を打開しようとしているのか.なぜそれで打開できそうなのか. 目的:そもそも今回の原稿中では何の達成を目指しているのか.問題をどこまで解決しようとしているのか. これらの項目の説明は,研究の必要性や重要性,新規性や有効性,また焦点や限界を読者に理解させる上で不可欠です.筆者と読者の間で前提知識が共有されていなければ,理想に共感してもらえません.理想に共感してもらえなければ,現状が不十分だということを納得してもらえません.現状が不十分であることに納得してもらえなければ,問題が問題であるとは認識してもらえません.問題を認識してもらえなければ,アイデアの素晴らしさは伝わりません.アイデアの素晴らしさが伝わらなければ,研究で何かが達成されそうだという期待感を持たせられません. 効果的なイントロの書き方 効果的なイントロとは,上記6つの「そもそも論」に対する明快な答えが明確に書かれているものです.したがって,論文を書く前に,まずはこれらの6項目に対する「端的な答え」をどのようなものにするかをしっかりと考えておくことが必須です.このためには,アウトライン整理のためのワークシート(Research Canvas)が便利です.下の記事で配布&解説していますので,参考にしてください. 6項目に対する答えの具体例として以下のようなものが挙げられます. 前提知識:素材Aは▲▲という特性を持つ材料である.この特性は希少であるので注目に値する. 理想:素材Aの▲▲特性を最大限に生かすことができれば,××を実現することができる.××の実現は□□の解決に資する. 現状:素材Aの▲▲特性は30%しか活かされていない.少なくとも60%にしないと使い物にならない. 問題の構造:▲▲特性の発揮を阻害している要因が不明であるのが問題.不明なのは,要因を統制した実験が困難だったから. アイデア:要因統制は,〇〇で可能なはず.〇〇は素材Aに近い別の素材でうまく要因統制をすることができているから. 目的:素材Aについての要因統制が〇〇で可能かどうかを実験的に確かめる.これが可能であれば,▲▲特性発揮の阻害要因を明らかにする研究が今後可能になる. 上記のように6項目に対する端的な答えが用意出来たら,あとは機械的にイントロを書いていくことができます.基本的には6段落用意して,それらの先頭行に各項目の答えを書き,各段落のそれ以降は,その答えをより分かりやすく,より納得できるものにするための補足説明を書いていくだけです.例えば,「1.前提知識」の段落では,▲▲特性というものが具体的にはどのようなものなのか,またどのくらい希少なのか,といった解説を付け加えればよいでしょう.「2.理想」の段落では,なぜ××を実現できると言えるかを根拠と共に論じるのがよいでしょう. 上記のような書き方は,パラグラフライティングと呼ばれます.下の記事も参考にしてみてください.  

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研究が進まなくて悩んだときの考え方

研究はこれまで誰も成し遂げなかったことを成し遂げようとする挑戦です.したがって,苦しい状況に陥ることは避けられませんが,同じ苦しみでも「前向きでやりがいのある苦しみ」に変えることは可能です.この記事では,苦しい状況に陥って疲れてしまったときに役に立つかもしれない考え方を紹介します. 「本当に挑む価値のある課題」は,とにかく挑戦をし続けた人にしか見えてきません.挑戦する前に見えている課題は,すでに誰がが解決しているか,もしくは誰もすぐには解けない無茶な課題なのです.挑戦をしていることに誇りを持ちましょう. したがって,なかなか達成できない悩ましい課題にぶちあたった時は,落ち込むのではなく,むしろ喜ぶべきです.他の誰も見つけられなかった「価値のある課題」がようやく目の前に現れてくれたのかもしれないのですから. 言い換えると,苦もなく作業が進んでいる時には,むしろ不安を感じるべきです.こんなに簡単では他の誰かにもやられて追い越されてしまいかねないと. 苦しいことに取り組むのは文字通り苦しいことです.誰にもできることではありません.だからこそ,その先には誰にもできないことを成し遂げたという栄誉が待っているのです. 上記のように考えたとしてもなお苦しくて耐えられないとしたら,「その課題に挑戦することが自分にとって何の糧になるのか」が掴めていないからかもしれません.自分の血となり肉になること以外をやることは,ストレスにしかなりません.一旦休憩して,その作業をしながらも自分の能力を高めるやり方はないかを整理することが必要です. 気分転換も大事です.この記事も役にたつかもしれません.

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論文の書き方 -➁アウトライン草案から要約版論文を書き起こす-

論文を効率よく書くにはいくつかのステップを踏むことが重要です.この記事では,アウトライン草案から要約版論文を作成するまでのステップを実例を挙げて解説します.アウトライン草案を作成するまでのステップは下の記事で解説していますので,先にご覧ください. 要約版論文とは 要約版論文とは,メモ書き程度であった「アウトライン草案」を原稿の投稿先の規定(論文フォーマット)に合わせた原稿に書き起こしたものです.アウトライン草案から文の量はそれほど増えませんが,この書き起こしによって,アウトラインの話をどれだけ膨らませれば既定ページ数範囲に収まる原稿が出来上がるかを見積もることができます.つまり,要約版論文を作成することによって,「序論を長く書き過ぎて他の部分が十分に書けなくなった…」という悲惨なバランス崩壊を避けられるのです. 下の図は,上の記事で作成したアウトライン草案から書き起こした要約版原稿のサンプルです.アウトライン草案と見比べてみてください.文の量はほとんど増えていません.また,この段階でもまだ草稿であり,文の順序の入れ替えや内容の追加・削除がありえるので,一文一文の緻密な推敲はまだ必要ありません. 要約版論文の解説 題目 論文のタイトルが暫定でも決まっている場合はそれを書けばよいでしょう.決まっていない場合は,サンプルのようにテーマを荒っぽく書いたものでも大丈夫です.バージョン番号も日付と対応させて記載(1月3日に作成したものであればver0103など)しておくと後々便利です. Abstract アウトライン草案が書けていれば,アブストラクトも書くことができます.アブストラクトの書き方は下の記事を参考にしてください.この記事ではアブストラクトの書き方を4ステップに分けて解説してます.草稿段階では,推敲をかける前のステップ➁までやっておけば十分です. 節と項の見出し 節の見出しは,「序論」「方法」「結果」「議論」「結論」「謝辞」など,投稿規定に合わせたものにしておきましょう.投稿先によって見出しの規定は違います.例えば「序論」でなく,「緒言」あるいは「はじめに」と書くように定められている場合もあります. アウトライン草案において項の見出しは抽象的(例:問題①に対応する方法①の紹介)なものに留めていましたので,この書き起こしの段階で具体化することが必要です.論文原稿における項の見出しは,その見出しを見るだけで具体的な内容がわかり,かつ直前の節のどの項目と対応しているかが推測できるようなものであるのが望ましいです.つまり,方法の見出しには序論で用いた用語を,結果の見出しには方法で用いた用語を,議論の見出しには結果で用いた用語をできるだけ使うのがよいということです.例えば,方法の2-1では「動物登用」と書いており,結果の3-1ではそれを受けて「登用に成功した動物」という見出しにしています.このようにすれば,結果の3-1には方法2-1を実施した結果が書いてあるということが容易に推測できます. 項目内での文の置き方 項目内には,アウトライン草案の文を配置していきます.ポイントは,基本的にはアウトライン草稿の1文で1段落を作るということです.これらの1文1文が,完成原稿での各段落の先頭文(要約文・トピックセンテンス)になります.1文で1段落を作るというのには抵抗があるかもしれませんが,これがパラグラフライティングの実践的方法です.パラグラフライティングの本質は,各段落の先頭文だけを抜き出しても全体の話の概要(アウトライン)が把握できるようにすることです.したがって,作成したアウトラインの文章は,それら一つ一つが各段落の先頭文に相当するのです.パラグラフライティングについては下の記事を参考にしてください. 各文への注釈 上のサンプル原稿を見てください.アウトライン草稿から抜き出して配置した文の最後に,カッコ書きで注釈をつけています.例えば,「(乱暴さを伝える具体例)」とか「(これを課題とした理由の説明)」といったものです.これらは,その文の説得力を高めるためにはどんな補足説明があれば効果的かを考えた結果のメモです. サンプル原稿を使って解説します.例えば,「鬼とは~であり,乱暴で破壊的である」というのが序論一段落目のトピックセンテンスです.この段落の二文目以降には,このトピックセンテンスを分かりやすく,納得できるものにするために必要最低限の補助文を付け足していきます.どのような補助文が必要かを考えるには,「この内容を知らない人,あるいはこの内容を信じていない人」にこの内容を説得しようとする場面を想像するとよいでしょう.この例では,「鬼とはいかに乱暴で破壊的かを信じてもらうために,乱暴さを伝える具体例をあげよう」と考えましたので,カッコ書きで,(乱暴さを伝える具体例)と注釈をつけておきました. この注釈は,要約版原稿から仕上げ原稿を作成していくための指針になります.骨格であるアウトラインにどのような肉をつけていくかの方針です.仕上げ原稿を書き始める前に,先生か先輩に見てもらって,他に付け足すべき補足説明の指針がないかのアドバイスをもらうとよいでしょう. 要約版原稿の活用の仕方 項と段落の数の把握と調整 要約版原稿を見れば,各節や項に含まれる段落の数を把握することができます.論文の構造の基本ルールとして,1つの節は複数の項で,1つの項は複数の段落で構成する,というものがありますので、1つの節に1つの項しかなかったり,1つの項に1つの段落しかない場合には,構成を見直すべきだと判断できます.アウトラインを読み直して,話題の流れが伝わるようにする上で付け足すべき話題が抜けていないかどうかを確認してみましょう. 肉付け可能な文量の把握 要約版原稿は,各トピックセンテンスに対してどのくらいの肉付けの余地が残されているかも教えてくれます.例えば、上のサンプル原稿の場合,図を除いて現状1.5ページです.ここで,投稿先の原稿の規定枚数が6ページだった場合は,図と参考文献リストと,肉付け用の補助文で合計4.5ページまでしか使えないという計算です.図と参考文献リストで0.7ページ使うと考えれば,補助文に使えるのは3.8ページです.現状各段落は2行くらい使っていて1.5ページなので,各段落4〜5行程度の肉付けをしていけばバランスよく規定ページ数に収まりそうだな,と見積もることができます.この見積もりができれば,一部を書き過ぎで他が書けなくなるという事態を避け,必要な情報がバランスよく記載された完成度の高い論文を仕上げることができます. まとめ アウトライン草案から要約版原稿を作成するステップを解説しました.このステップを踏まえることで,バランスよく補足内容を追加していく方針を得ることができます.要約版原稿を共著者や指導者に確認してもらい,了承を得たら,次はいよいよ原稿の仕上げです.仕上げ原稿の作成の方法は別記事で紹介します.

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論文の書き方 -➀アウトラインを設計して草案を書く-

論文を書き上げるのは大変な作業です.最も大切な作業は,論文の文章を書き始める前の「構造アウトラインの設計」です.建築物に建築基準法があるように,論文にも作成ルールがあります.この記事では,論文作成の上で守るべき3つのルールを紹介した上で,論文のあらすじを整理したものであるアウトライン草案の設計の仕方と書き方について解説します. 論文作成の際に守るべき3つのルール 建築物に対して「認可されるためにはこの形式で建てろ」という建築基準法があるように,論文にも「受理されるためにはこの形式で書け」というルールがあります.この基準を守らなければ,認可されませんし,好まれず,また信頼して読んでもらえません.このルールには,3つの種類があります.それは,「➀外観基準」「➁構成基準」「③構造基準」です.下の図で解説しています. 一つ目の外観基準とは「外観の在り方を定めたルール」であり,論文の内容とは無関係に守らなければいけない書類の見え方を定めたルールです.論文投稿規定(論文フォーマット)あるいは原稿規定(原稿フォーマット)とも呼ばれます.例えば,余白は〇〇mm以上で,文字サイズは〇〇ptにして,フォントは〇〇ゴシックにしなさい,といったものです.都市によって建物の外観基準が違うように,論文の外観基準も提出先の学会や論文誌,あるいは大学や専攻によっても違います.どこに論文を出すかが決まったら,まずは「投稿規定」「投稿フォーマット」「論文フォーマット」がどのように設定されているかを調べましょう.上記のような文言で規定がつらつらと書かれているだけの場合もあれば,フォーマットを守って作成されたサンプル論文ファイルや論文テンプレートが提供されている場合もあります.是非活用しましょう. 二つ目の構成基準とは「構成の区分を定めたルール」であり,ある敷地をどんな建物や部屋で分割するかを定めたものです.論文では,IMRADが基本の区分法です.少なくとも,緒言(Introduction), 手法(Method), 結果(Result),そして議論(Discussion)は明確に場所を分けて書きなさい,というものです.論文の提出先によっては,この他にも,「英語の概要(Abstract)を設けること」「結論(Conclusion)の節を議論の節とは独立に設けること」「謝辞の節を設ける場合には,結論の節の直後に置くこと」などの附則が定められている場合もあります.論文提出先が決まったら,これらの附則もしっかり確認しておきましょう. 三つ目の構造基準とは「各構造の組み方を定めたルール」であり,緒言や手法などの各節の中において,どのように段落を分け,そして各段落のどこにどのような文をどのような形式で置くか,というルールです.論文では,パラグラフライティングのルールに則って文を置いていくことがほぼ必須です.好き勝手に文を置くのはルール違反なのです. アウトライン草案の設計法と書き方 上記では,論文のルールを建築物のルールになぞらえて解説しました.実は,論文を実際に書いていくプロセスも,建築物を建てていくプロセスをイメージするとよく理解できます.建物が組み上げられていく前に,どんな工事が行われているかを見たことはありますか?おそらく「何もない敷地の一角にある部屋を細かく組み上げて完成させてから,その横にまた別の部屋を組み始めて…」といったやり方ではなかったはずです.きっと,「部屋の仕切りの位置に合わせてコンクリートで基礎を作り(基礎工事),それから柱や板で全体の骨格を大まかに作ってから(全体骨格固め),各部屋毎に細かい仕上げをする(仕上げ工事)」というものだったはずです.そして基礎工事が始まる前には,最終的な完成形を見据えた入念な設計が行われているはずです. 論文でも,「設計と基礎工事」の後に「全体骨格固め」を実施してから,「仕上げ工事」をするべきです.さあ論文を書くぞ,と思ったときに,いきなり原稿の一部の文章を書き始めようとして,筆が進まないという経験はありませんか?これは,何もないところにいきなり仕上げ工事をしようとしているのと同じなので,大変難しいやり方です.下の図を見てください.仕上げ工事に至る前の工程のポイントと方法を解説しています.工程➁までが草案作成の工程です.上記で述べた3つのルールの内,草案作成で守るべきは「構成基準」と「構造基準」です.外観基準は,論文の最後の仕上げの際に気を付ければそれでなんとかなるので草案を書く段階では気にしなくても大丈夫です. 工程➀設計と基礎工事 この最初の工程は,「ある程度研究が進んで結果が得られたから,論文を書き始めよう」という際に最初に取り組むべきものです.まだ論文の原稿用紙と向かい合ってはいけません.細かい文言をどうするかは,二の次三の次の工程です.ここでは,どんな内容をどう組み合わせると全体の話がうまくまとまりそうか,という大枠の検討作業を行います.必要なのは,これまでに考えてきたこと,あるいはやってきたことのメモや資料です.ノートへの書きなぐりでもよいので,研究課題は何か,方法や結果,結論はどのようなものになるのか,そしてそれらがきちんと対応した内容になっていることをどのような表現とすればよいのかを,これまでの取り組みを踏まえて整理していきましょう. この整理のためには,下の図のような構造設計ワークシートが便利です.緑字は桃太郎の鬼退治を例にした記入例です.このワークシートの中に,チェック項目を満たすような短い文面を記載できない限り,論文の原稿はおろか,草稿すら書き始めるのは危険です.時間をかけて書き進めても,きれいにまとまらずにまたほとんど最初から書き直し,という破目に陥ります.ワークシートを使いましょう.このワークシートの最新版PDFは,左下の「Download Now!」ダウンロードボタンから入手可能です(大阪大学のサーバ内に置いています).[sdm_download id=”2637″ fancy=”0″] ※現在ダウンロードボタンが生成されない状態になっていますので,「ここをクリック」してダウンロードしてください. このワークシートを埋めるのは,簡単ではありません.一部が書けたと思っても,他の箇所と整合性がとれなくなったり,この枠内に収まりきらない文量になったりするはずです.収まらないからといって枠を広げようとしてはいけません.この枠内に収めるために,もっと端的な表現がないかを探すことにこそ,このワークシートを使う意味があるのです.ある程度書けたら,先輩や教員にみてもらうとよいでしょう.もっと端的で効果的な表現を教えてくれるかもしれません. 工程➁全体骨格固め 工程➀でワークシートが埋まったら,いよいよアウトライン草案の作成です.ただし,アウトライン作成前には一度論文の共著者や指導者にこのワークシートを見せて,問題ないかを確認してもらうのがよいでしょう.草案はこのワークシートの内容に沿って作成しますので,このワークシート自体が未完成だと,草案自体も大きく作り直さなければいけないからです. 差し当たっては,まずは節と項の見出しをざっと書いていきましょう.下の図が,桃太郎の鬼退治のワークシートをみて作成したアウトラインですので,それを見てください.節の見出しを書くのは簡単です.IMRAD形式になるように「序論」「方法」「結果」などの節名をそのまま書けば十分です.一方で,項の見出しを書くのには少しコツがいります.下のアウトラインの例を見てもらうとわかりますが,項の見出しは,その項の役割を抽象的に記述したものにするとよいです(問題➀に対応する方法①の説明,など).アウトラインの話題の構造を見える化して,扱う話題に漏れがでないようにするためです.下の例で,問題に➀~③の番号を振り,その番号を使いながら方法,結果,議論の項に見出しを付けて対応が分かるようにしていることに注目してください. 著者は移動中などの隙間時間で草案を作成するため,Evernoteで作成していますが,Wordでも,紙のノートでも,何でも構いません.著者は使用したことはありませんが,このような作業に特化したアウトラインエディタというものもいくつかあるようです. 見出しが揃ったら,次はまたワークシートを見ながら具体的な内容を埋め込んでいきます.基本的にはワークシートに書かれたものの転載で構いませんが,簡潔に埋められるところは埋めていくとよいでしょう.仕上げの段階で推敲をかけますので,そこまで洗練した文章である必要はありません.書きながら思いついたことも含めて,メモ書き程度でよいので埋めていきましょう.余計だったらあとで消せばよいです. 下の図が,ワークシートの内容+αを埋め込んだ草案です.これをざっと読むだけで,論文のあらすじが掴めるものができることがわかると思います.これが論文のアウトラインであり,話の展開の全体骨格です.一つ一つの骨は細く,飾りつけもありませんが,ワークシートがしっかりと書けていれば,論理的にしっかりとした話として成立させることができます. 工程➂仕上げ工事 工程➁で,草案が書きあがりましたので,「論文の草案を書いて見せて欲しい」と言われていた場合には,上記のものをできるだけ早く作成して見せにいけばよいでしょう.その内容に対してOKがでて,「じゃあこれをもとにもっと完成度の高い原稿(草稿)を書いてきて」と言われたら,WordやLatexのような原稿エディタに向かい始めましょう. もしこの時点で投稿先が決まっているようなら,そこの論文フォーマットを入手しておきましょう.「外観基準」を守るためでもありますが,「論文がここまでできた」という実感を持つことによってモチベーションを高めるという効果もあります.論文のフォーマットに従って,工程➁で作成したアウトラインの節や項の見出しと文面を書き写していきましょう. ここの工程でもっとも重要なのは,パラグラフライティングです.構造基準を守るためです.パラグラフライティングについては下の記事で解説していますので,読んで活用してください.コツは,アウトラインを見ながら,まずは各項ごとにパラグラフの数を決め,各パラグラフのトピックセンテンスの文だけを書いていくことです.つまり,一段落一文だけで論文を書いていく,ということです.この作業によって,「要約版の論文」ができあがります.アウトラインから要約バージョンの論文を作成し,原稿を完成形に仕上げていく方法は別記事で解説します. まとめ 論文のアウトライン草案を書くための工程を,建築物の工程になぞらえて解説しました.いきなり原稿にむかって文を書き始めるやり方は難易度が高すぎます.まずはワークシートやメモアプリを活用して,段階的に設計を進め,各段階で先輩研究者の確認をもらうようにしましょう. アウトライン草案から要約版論文を作成する方法は下の記事で解説しています.

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ポスター発表の作成例見本 -見やすく説明もしやすい構成のコツ-

見やすく説明もしやすい構成の学会ポスターの作り方を作成見本を用いて解説します。見本に使うのは、桃太郎が鬼退治の作戦を村会議で発表する、という想定で作成したポスターです。 見本ポスター 下に載せているのが見本のポスターです。緑を基本色として、游ゴシック体のフォントで作成しています。レイアウトだけでなく、フォントの大きさや色、また太字・細字の場所毎の使い分けや、文字数と図の割合、枠線やスペースの使い方に注目してみてください。 ポスターの工夫点 下の図では、上の見本例の中で工夫がなされている点をリストアップしています。これらは全て、分かりやすく、かつ説明もしやすくするための工夫です。汎用的な工夫なので、ポスターを作る際にこれらの工夫を凝らしてみてください。 まとめ 桃太郎のポスター発表を例に挙げて作例見本を紹介し,効果的な工夫の仕方をリストアップしました.参考にしてみてください.ポスター発表本番で成功するための話し方のコツは下の記事で解説しています.

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研究者になろうとする学生に必要なスキルアップ

もしあなたがこれから研究者になろうとしている学生さんなら,学生でいる間に「研究者としてのスキルアップ」を達成する必要があることを強く意識しておかないといけません.もし博士号を得ることだけが目的なのであれば,博士課程に進学して一定の質と数の論文を世に出すことさえできれば十分ですが,その後研究者として成果を挙げ続けたいのであれば,その過程で研究の基礎力を高いレベルにまで引き上げ,使いこなせるようになっていなければいけません. 学生の間にスキルアップが必要な「研究の基礎力」とは 研究の基礎スキルとは,「論証」「要約」「意見」「構成」「管理」「確認」の6つのスキルのことを指します.これらのスキルの詳細と,必要な理由は下の記事で紹介しています. 学部研究・修士研究・博士研究でのスキルアップ目標 上記の6つの基礎スキルを着実に向上させていくには,研究の中での実践が重要です.学部研究では,研究の一連の流れを体験する中で,これらの基礎スキルがどのようなものか,また,それらがどのような場面で必要とされるのかを把握することを目標としましょう.修士研究では,専門技術を使って研究の質を高めていく中で,自分の研究パフォーマンスを高めるための基礎スキルの活用のコツを掴むことを目標にしましょう.博士研究では,基礎スキルを使いこなすことで独自の成果を効率よく挙げられることを証明することを目標にするとよいでしょう. まとめ 上に挙げた基礎スキルは一見簡単なようですが,使いこなして高い研究パフォーマンスに結びつけることは一朝一夕には叶いません.博士号というのは,これらのスキルが「研究者としてなんとかやっていく上で最低限」身についたことの証ではありますが,それだけでは研究者として戦っていくにはとても足りないのです.ある程度自分のスキルが高まってくると,それまでは意識しなかった先輩研究者の何気ない行動や発言が,実は自分などとても及びもつかないほど高いレベルでスキルを使いこなした結果だったことに気づき,驚かされることになるはずです.スキルにリミットはありません.専門的なスキルの向上だけに専念するのではなく,基礎となるスキルの向上も意識的に継続し,少しでも高みを目指しましょう.

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駆け出し研究者のための研究技術入門:記事一覧

研究パフォーマンスを高めるには専門技術だけでなく,基礎的技術も必要です.この記事では,著者が効果を確かめてきた基礎的な知識や技術を4編に分けて解説しています. 初級編:学生さんにまず知っておいて欲しいこと 実践編:研究の各場面で使える実践的技術 理論編:技術を使いこなすための理論 発展編:さらなる飛躍のための研究以外の技術 ツール編:研究支援ツールの使い方 ①初級編 – 研究を始めるにあたって 心構え テーマ設定 ②実践編 – 各場面で成果を挙げるために 論文 プレゼン・ポスター 発表後 話す・聴く・読む ③理論編 – 技術を使いこなすために プレゼンテーション 議論 論文   ④発展編 – 研究をさらに発展させるために ⑤ツール編 – 楽に研究を進めるために<\strong>