ポスター発表の本番は最初の1分が勝負 -不安を感じない話し方のコツ-

研究技術解説

ポスター発表で多くの人に通り過ぎられるのは寂しいものですよね.ポスター発表本番の話し方に不安を抱えているとしたら,それは論文や講演とも違う「ポスター発表ならではのコツ」を掴んでいないからです.コツさえ掴めれば,不安に感じることが減るだけでなく,発表の効果も高まります.この記事では,ポスター発表のコツを9つ紹介します.

9つのコツ

紹介するコツは,以下の9つです.

  1. まずは40秒程度で概略を説明してそこで一旦終える
  2. 相手の興味に合わせて説明をつけ足していく
  3. 感情や感覚が伝わる言葉で説明する
  4. ポスターの警備はしなくてもよい
  5. すぐに自分の役に立つ小さな達成目標を設定しておく
  6. 軽く見ただけでなんとなく内容が掴めるようにする
  7. タイトルは来てほしい相手に合わせて具体的な表現にする
  8. 一対一の会話を続けない
  9. A4版ポスターや論文資料を用意する

一つずつ解説していきます.

➀まずは40秒程度で概略を説明してそこで一旦終える

ポスターの中身を全て説明しきるために相手の興味を5分も10分も惹き続けなければいけないぞ,と考えるのは止めましょう.それは成功のハードルが高すぎます.ポスター発表の会場でうろうろしている人たちは,できるだけ多くのポスターを巡りたいと考えているので,5分も10分も捕まえておこうと思うとまず失敗します. 最初は,1分だけ時間をもらって,その間に概要だけでも伝えられたら成功だと考えるようにしましょう.全体の話の流れを掴む上で重要な部分だけをかい摘んで紹介し,一旦そこで説明を終えるのです.それができたらとにかく最低限のハードルはクリアしたと考えれば,あとは気が楽です.40秒くらいで終えられる概要説明を前もって練習しておきましょう

➁相手の興味に合わせて説明をつけ足していく

➀で概要説明をしたら,相手は何かしらの反応を返すはずです.その反応から,相手の知識や興味を探りましょう.そしてその後は,それに合わせて詳しい説明をつけ足していきましょう.相手によって,知識範囲も違えば,知りたいと思っている内容も違います.結果の解釈部分に興味がある相手に対して,背景や手法の詳細をクドクドと説明するのは有効な時間の使い方ではありません.概要を説明した後に「どこか詳しくお知りになりたいところはありますか?」と聞くのも有効です.相手が「ここは具体的にはどうやったのですか」などの質問をしてくれれば一番楽ですね.それにただ答えていけばよいです.

➂感情や感覚が伝わる言葉で説明する

ポスター発表で論文や登壇講演のような硬い口調で話すと,相手も壁を作ってしまうのでなかなかよい反応を返してくれません.相手と距離が近いことがポスター発表のよいところなので,気持ちの面でもできるだけ近づいて,感情を載せた表現や感覚的な表現を盛り込んでみましょう.このような表現は,理解されやすく,記憶もされやすいという利点があります.単に「問題はこれです」「この手法を採用しました」「結果はこうでした」と淡々と説明するのではなく,「こうしたいんですけど,ここがぐちゃぐちゃっとなってしまうのでなかなか難しいんですよね」「もともとダメ元だったんですが,今回はこのやり方でえいやっと試してみたんですよ」「驚いたんですが,結果は思いの他よかったので,ほっとしました」などのように,研究を進めながら自分で感じたことも含めて伝えてみましょう.きっと相手も楽しそうに話を聞いてくれるはずです.

➃ポスターの警備はしなくてもよい

発表者がポスターを守るかのように警備員のようにじっと立っていて,捕まえたら逃がさないぞ,という雰囲気を出しているところにはなかなか近づきにくいものです.自分が発表者だということはわかる程度に少し距離をおいて,まずは誰しもがポスターを一人で安心して眺められる時間を用意しましょう.この間に彼らは発表者から詳しく聞く価値のあるポスターか否かを判断します.

もし彼らが周りを見回すなど,発表者を探しているようなら「説明しましょうか?」や「質問がありましたらお受けします」などのように声をかけながら近づいていくとよいでしょう.もしどうしても聞いてもらいたい相手なのであれば,「発表者なのですが,紹介させてください」と申し出るのもよいでしょう.

➄すぐに自分の役に立つ小さな達成目標を設定しておく

➀で説明したように「ポスターの内容を多くの人に全て理解してもらう」という目標設定はハードルが高すぎて達成は困難です.さらに言えば,この目標が達成できたところで,何かすぐに自分の役に立つわけではありません.何かもっと,短期的に自分の得になる小さな達成目標を決めておきましょう.例えば,困っているところの解決のアドバイスをもらう,新しい応用に関するアイデアをもらう,共同研究相手を見つける,緊張せずに40秒ですらすらと概要説明を終えられるようにする,など様々な目的設定が可能です.

目標を定めたら,それに合わせてポスターにメリハリをつけその目標が達成しやすいように工夫してみましょう.アドバイスやアイデアが必要なのであれば,そこに困っていることを話題に挙げましょう.共同研究相手を見つけたいのであれば,必要としている共同研究相手が近づいて来やすい発表資料を作りましょう.タイトルに彼らの分野のキーワードを入れる,彼らの知識範囲に合わせた説明にする,共同研究相手を探していることを明記する,などです.

➅軽く見ただけでなんとなく内容が掴めるようにする

できるだけ多くの人に立ち止まってもらい,さらには近づいてきてもらいたいのであれば,少し遠くからちらっと見ただけでも「何となくこんな研究かな?」ということが分かるようにしておくとよいでしょう.文字ばかりのポスターではそれは叶いません.研究の興味の対象や扱ったものがよく分かるような写真や図を大きめに載せておいたり,キャッチーな言葉を大きめに記載しておくと効果的です.

街に貼ってある広告のポスターと同じだと考えるとよいでしょう.まず写真や図柄で人目を引き,大きめの文字を読ませてさらに読みたい気にさせてから,細かい文字を読ませる,というのが広告ポスターのデザインの意図です.ぱっとみただけでどこに何が書いてあるのかが把握できるように枠や見出しをきちんと設定することも重要です.

➆タイトルは来てほしい相手に合わせて具体的な表現にする

相手は自分のためになりそうな発表しか聞きにきません.全ての人に興味を持ってもらえるタイトルというのはありませんので,どんな人に来てもらいたいのかを考えて,来てもらう目標とするターゲットを絞りましょう.同じ専門の人に来てほしいのであれば,専門用語を組み合わせながらも新しさが分かるようにする工夫が必要です.また,「~の開発」のような指す範囲の広い表現では,その開発において特にこだわったポイントや提案性,意義が判然としないので,興味を持ってもらいにくくなります.より具体的に,「~を実現する機構」「~の提案」「~の将来展望」「~の長所と短所」などのように書いておくのがよいでしょう. ただし,上記のようにした場合,少し専門から外れる人にとっては敷居の高いものとなるので,聞きに来てもらいにくくなります.少し専門から外れた人にも聞いてもらいたい場合には,専門用語を少しかみ砕いたタイトルにすべきでしょう.全くの異分野の人を呼びたい場合には,こちらの専門用語は使わず,むしろその分野の用語を含めるべきです.

➇一対一の会話を続けない

話をよく聞いてもらえる相手が見つかると安心して,その人とだけ長々と会話してしまうことが往々にしてあります.しかし,そうなると周囲に集まりつつある人が会話に入りづらいことになってしまいます.かといって,せっかくの話を打ち切ってまで新しい人に一から研究を紹介し始めるのも考え物です.少なくとも,来てもらっていることに気付いているよ,というサインは送っておきましょう.話しながらその人の方にも視線を向けたり,説明に短めの注釈をつけたりしてもよいでしょう.気づいてもらえているとわかれば,話に混ざろうとして質問をしてくれたりするはずです.気づかれていないと思えば,あきらめて他のポスターに行ってしまうでしょう.

人数が増えると,説明が楽になります.聞いている人同士で解説し合ったり議論を始めたりしてくれるからです.ポスターの前に大きな人の輪を作っていきましょう.一人で頑張って説明しつづけなくてもいいのです.

➈A4版ポスターや論文資料を用意する

すごく聞いてみたいのに時間がない,あるいは発表者が他の人と話していて会話に入れない,などの理由でポスターから離れてしまう人がいます.彼らのために,後からポスターを見ることができる機会を提供するのも研究紹介の有効な手立てです.ポスターをA4サイズ程度に印刷したものをポスター周辺に置いたり,袋に入れてポスターパネルにかけておくとよいでしょう.

また,関連する論文を読みたいと考える人もいます.自分のWebサイトや論文タイトルを紹介するのも重要ですが,あらかじめ印刷した論文を数組用意しておくのも手です.帰りの新幹線やホテル,また学会の休憩時間などに見てもらえる可能性があります.また,このような資料を用意しておけば,細かい数値などあまり覚えていないところを質問されても,「詳しくはこちらに記載しています」と渡せば済むので,気持ちも幾分楽になります

まとめ

なるべく不安を感じないようにしつつも,ポスター発表の効果を高めるためのコツを紹介しました.是非試してみてください.また,下の記事ではポスター資料の作り方のコツを見本付きで紹介していますので,こちらもご覧ください.

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