研究の技術

研究の技術

論文タイトルは5ステップで決める -実例付き解説-

タイトルは,論文中で最も短いながらも最も重要な文言です.この記事では,5ステップによるタイトルの決め方を具体例を挙げながら解説します. この記事で紹介する手順 この記事では,下に挙げる5つのステップでタイトルを決める手順を具体例を挙げながら説明します. まずは研究の「肝」をはっきりさせる どこまで到達したのかを表現する語尾を定める 「肝」をそこまで到達させることの意義や価値を追記する 推敲する 最終チェック 論文の内容を把握していない他の研究者達にとって,まずは40字程度の論文タイトルこそがその論文の全てであり,読むべきか否かを判断する材料です.書籍や映画の題名のように目を惹くものでありつつも,内容を正確に反映したものにしましょう.ここでは,卒論・修論・博論だけでなく、学会誌論文も含めた論文タイトルを決める際の基本の手順を紹介します. ➀まずは研究の「肝」をはっきりさせる タイトルを決めるにあたって,まずは他の研究との違いを生む「肝」や「売り」が何かを整理していきましょう.あなたの研究を特別なものにしているのは,扱った対象ですか?用いた手法ですか?得られた結果ですか?少なくとも一つはあるはずですので,まずはそれをはっきりさせましょう.もちろん,「この対象に対してこの手法を用いたこと」のように,組み合わせに特徴がある場合もあるでしょう. 読者がタイトルから知りたいのは,この「肝」です.他の論文に比べて何が特別なのかをタイトルに記載して知らせない限り,読者に特別読む気を起こさせることはできません.「この研究の肝は×××です」とはっきり言えるように,行った研究の独自性を整理することから始めましょう.指導者や共著者,また先輩や後輩に素直に訪ねてみてもよいでしょう.まだこの段階では文字数を気にしなくても構いません.言葉も口語調であったり,多少曖昧でも大丈夫です.とにかく肝を表現してみましょう. 扱った対象が肝の例:この研究の肝は,「新方式の触覚センサを扱ったこと」です. 手法が肝の例:この研究の肝は,「より安定性の高いロボット用走行アルゴリズム」です. 結果が肝の例:この研究の肝は,「ロボットの走行速度が10%向上したこと」です. ➁どこまで到達したのかを表現する語尾を定める 上記の➀で「肝」が決まったら,その「肝」について何を済ませたところなのかが分かる到達度表現を決めましょう.到達度表現というのは,例えば,「実現」「解明」「達成」「実証」「証明」「評価」「改善」「作成」「構築」「考案」「解析」「調査」「分類」「予備的実験」「試作」などです.この到達度表現が,タイトルの語尾の候補です.語尾を「研究」とするのは,到達度が分からないのでタイトルにするのは好ましくありません.到達度表現が決まったら,「肝」と組み合わせて文を作ってみましょう.ここでも文字数や言葉遣いをそこまで気にする必要はありません. 例:新方式の触覚センサの実現 例:より安定性の高いロボット用走行アルゴリズムの実証 例:ロボット走行速度10%向上の達成 ➂「肝」をそこまで到達させることの意義や価値を追記する 上記➁までで,「肝+到達度の語尾」まで定まったら,次に記載すべきは「そこまでの達成を頑張ったのは何のためなのか」という意義や価値が分かるようにするための説明です.もし➁までで決めた「肝+達成度の語尾」の説明だけで,想定する読者に対して十分それらが伝わるのであれば追記は不要です.しかし,そうでなければ,「~の実現のための」「~の達成に向けた」「~の改善に資する」「~が可能な」のような,「そこまで到達すれば確かにやる意義があるね」と思ってもらえる内容を追記しましょう.ここでも文字数や言葉遣いを気にする必要はありません. 例:高感度かつ高耐久の新方式の触覚センサの実現 例:野外での高速搬送の達成に向けたより安定性の高いロボット用走行アルゴリズムの実証 例:消費電力を維持したままでのロボット走行速度10%向上の達成 ➃推敲する 上記➂までは,タイトルの情報量を増やすことをやってきました.しかし,タイトルには文字数制限が設けられていることがほとんどですので,ここからは情報量をできるだけ減らさずに,また可能なら情報量を増やしつつ,文字数を少なくするための推敲が必要です.推敲の方法は下の記事を参考にしてください.内容を具体化したり,意味を限定したり,短く切ったりする作業を行います. 例:感度と耐久性を両立するコイルと磁性エラストマを用いた柔軟触覚センサ 例:野外での安定的高速搬送のための走行アルゴリズムの実証 例:追加の電力消費なしでの二脚ロボットの走行速度向上 ➄最終チェック タイトルだけで意味が分かるか まずはタイトルが読まれて意味が分かるかどうかを確認しましょう.意味の分からない用語が入っているタイトルの論文はまず読まれません.論文の中で定義した独自の略語は用いないようにしましょう. 自明情報は省かれているか 一般的に,また特に論文を提出する分野において書かなくても当然だと判断される内容は省くことが可能です.例えば,「新たな」「発見」「興味深い」「に関する研究」などは論文となる時点で当然なので省けます. 質問形式でなく,答えを書いているか 質問形式のタイトルは人目を惹きますが,一方で情報はあえて隠しているので少なくなります.まずはその質問の答えを明確に書くことを検討し,それとの比較で質問形式としてもよいかを判断するのがよいでしょう. 過度な期待を持たせないか よい論文タイトルとは,そのタイトルを見た時に想像した論文の内容と,実際に論文を読んだときに読み取った内容が一致するものです.過度な期待を持たせるタイトルでも,過少評価を受けるタイトルでも不適切です. 主観的な表現が入っていないか 読み手によって程度解釈の分かれる主観的な表現はタイトルに含めるべきではありません.「特別の」「非常に」「究極の」「素晴らしい」「上手な」などがそうです. まとめ 論文のタイトルを決めるための基本的な方法を紹介しました.ここで紹介した決め方に沿わないよいタイトルももちろんありますが,まずはこの決め方をマスターするようにしましょう. 参考 一流の科学者が書く英語論文 東京電機大学出版

研究の技術

ポスター発表の本番は最初の1分が勝負 -不安を感じない話し方のコツ-

ポスター発表で多くの人に通り過ぎられるのは寂しいものですよね.ポスター発表本番の話し方に不安を抱えているとしたら,それは論文や講演とも違う「ポスター発表ならではのコツ」を掴んでいないからです.コツさえ掴めれば,不安に感じることが減るだけでなく,発表の効果も高まります.この記事では,ポスター発表のコツを9つ紹介します. 9つのコツ 紹介するコツは,以下の9つです. まずは40秒程度で概略を説明してそこで一旦終える 相手の興味に合わせて説明をつけ足していく 感情や感覚が伝わる言葉で説明する ポスターの警備はしなくてもよい すぐに自分の役に立つ小さな達成目標を設定しておく 軽く見ただけでなんとなく内容が掴めるようにする タイトルは来てほしい相手に合わせて具体的な表現にする 一対一の会話を続けない A4版ポスターや論文資料を用意する 一つずつ解説していきます. ➀まずは40秒程度で概略を説明してそこで一旦終える ポスターの中身を全て説明しきるために相手の興味を5分も10分も惹き続けなければいけないぞ,と考えるのは止めましょう.それは成功のハードルが高すぎます.ポスター発表の会場でうろうろしている人たちは,できるだけ多くのポスターを巡りたいと考えているので,5分も10分も捕まえておこうと思うとまず失敗します. 最初は,1分だけ時間をもらって,その間に概要だけでも伝えられたら成功だと考えるようにしましょう.全体の話の流れを掴む上で重要な部分だけをかい摘んで紹介し,一旦そこで説明を終えるのです.それができたらとにかく最低限のハードルはクリアしたと考えれば,あとは気が楽です.40秒くらいで終えられる概要説明を前もって練習しておきましょう. ➁相手の興味に合わせて説明をつけ足していく ➀で概要説明をしたら,相手は何かしらの反応を返すはずです.その反応から,相手の知識や興味を探りましょう.そしてその後は,それに合わせて詳しい説明をつけ足していきましょう.相手によって,知識範囲も違えば,知りたいと思っている内容も違います.結果の解釈部分に興味がある相手に対して,背景や手法の詳細をクドクドと説明するのは有効な時間の使い方ではありません.概要を説明した後に「どこか詳しくお知りになりたいところはありますか?」と聞くのも有効です.相手が「ここは具体的にはどうやったのですか」などの質問をしてくれれば一番楽ですね.それにただ答えていけばよいです. ➂感情や感覚が伝わる言葉で説明する ポスター発表で論文や登壇講演のような硬い口調で話すと,相手も壁を作ってしまうのでなかなかよい反応を返してくれません.相手と距離が近いことがポスター発表のよいところなので,気持ちの面でもできるだけ近づいて,感情を載せた表現や感覚的な表現を盛り込んでみましょう.このような表現は,理解されやすく,記憶もされやすいという利点があります.単に「問題はこれです」「この手法を採用しました」「結果はこうでした」と淡々と説明するのではなく,「こうしたいんですけど,ここがぐちゃぐちゃっとなってしまうのでなかなか難しいんですよね」「もともとダメ元だったんですが,今回はこのやり方でえいやっと試してみたんですよ」「驚いたんですが,結果は思いの他よかったので,ほっとしました」などのように,研究を進めながら自分で感じたことも含めて伝えてみましょう.きっと相手も楽しそうに話を聞いてくれるはずです. ➃ポスターの警備はしなくてもよい 発表者がポスターを守るかのように警備員のようにじっと立っていて,捕まえたら逃がさないぞ,という雰囲気を出しているところにはなかなか近づきにくいものです.自分が発表者だということはわかる程度に少し距離をおいて,まずは誰しもがポスターを一人で安心して眺められる時間を用意しましょう.この間に彼らは発表者から詳しく聞く価値のあるポスターか否かを判断します. もし彼らが周りを見回すなど,発表者を探しているようなら「説明しましょうか?」や「質問がありましたらお受けします」などのように声をかけながら近づいていくとよいでしょう.もしどうしても聞いてもらいたい相手なのであれば,「発表者なのですが,紹介させてください」と申し出るのもよいでしょう. ➄すぐに自分の役に立つ小さな達成目標を設定しておく ➀で説明したように「ポスターの内容を多くの人に全て理解してもらう」という目標設定はハードルが高すぎて達成は困難です.さらに言えば,この目標が達成できたところで,何かすぐに自分の役に立つわけではありません.何かもっと,短期的に自分の得になる小さな達成目標を決めておきましょう.例えば,困っているところの解決のアドバイスをもらう,新しい応用に関するアイデアをもらう,共同研究相手を見つける,緊張せずに40秒ですらすらと概要説明を終えられるようにする,など様々な目的設定が可能です. 目標を定めたら,それに合わせてポスターにメリハリをつけその目標が達成しやすいように工夫してみましょう.アドバイスやアイデアが必要なのであれば,そこに困っていることを話題に挙げましょう.共同研究相手を見つけたいのであれば,必要としている共同研究相手が近づいて来やすい発表資料を作りましょう.タイトルに彼らの分野のキーワードを入れる,彼らの知識範囲に合わせた説明にする,共同研究相手を探していることを明記する,などです. ➅軽く見ただけでなんとなく内容が掴めるようにする できるだけ多くの人に立ち止まってもらい,さらには近づいてきてもらいたいのであれば,少し遠くからちらっと見ただけでも「何となくこんな研究かな?」ということが分かるようにしておくとよいでしょう.文字ばかりのポスターではそれは叶いません.研究の興味の対象や扱ったものがよく分かるような写真や図を大きめに載せておいたり,キャッチーな言葉を大きめに記載しておくと効果的です. 街に貼ってある広告のポスターと同じだと考えるとよいでしょう.まず写真や図柄で人目を引き,大きめの文字を読ませてさらに読みたい気にさせてから,細かい文字を読ませる,というのが広告ポスターのデザインの意図です.ぱっとみただけでどこに何が書いてあるのかが把握できるように枠や見出しをきちんと設定することも重要です. ➆タイトルは来てほしい相手に合わせて具体的な表現にする 相手は自分のためになりそうな発表しか聞きにきません.全ての人に興味を持ってもらえるタイトルというのはありませんので,どんな人に来てもらいたいのかを考えて,来てもらう目標とするターゲットを絞りましょう.同じ専門の人に来てほしいのであれば,専門用語を組み合わせながらも新しさが分かるようにする工夫が必要です.また,「~の開発」のような指す範囲の広い表現では,その開発において特にこだわったポイントや提案性,意義が判然としないので,興味を持ってもらいにくくなります.より具体的に,「~を実現する機構」「~の提案」「~の将来展望」「~の長所と短所」などのように書いておくのがよいでしょう. ただし,上記のようにした場合,少し専門から外れる人にとっては敷居の高いものとなるので,聞きに来てもらいにくくなります.少し専門から外れた人にも聞いてもらいたい場合には,専門用語を少しかみ砕いたタイトルにすべきでしょう.全くの異分野の人を呼びたい場合には,こちらの専門用語は使わず,むしろその分野の用語を含めるべきです. ➇一対一の会話を続けない 話をよく聞いてもらえる相手が見つかると安心して,その人とだけ長々と会話してしまうことが往々にしてあります.しかし,そうなると周囲に集まりつつある人が会話に入りづらいことになってしまいます.かといって,せっかくの話を打ち切ってまで新しい人に一から研究を紹介し始めるのも考え物です.少なくとも,来てもらっていることに気付いているよ,というサインは送っておきましょう.話しながらその人の方にも視線を向けたり,説明に短めの注釈をつけたりしてもよいでしょう.気づいてもらえているとわかれば,話に混ざろうとして質問をしてくれたりするはずです.気づかれていないと思えば,あきらめて他のポスターに行ってしまうでしょう. 人数が増えると,説明が楽になります.聞いている人同士で解説し合ったり議論を始めたりしてくれるからです.ポスターの前に大きな人の輪を作っていきましょう.一人で頑張って説明しつづけなくてもいいのです. ➈A4版ポスターや論文資料を用意する すごく聞いてみたいのに時間がない,あるいは発表者が他の人と話していて会話に入れない,などの理由でポスターから離れてしまう人がいます.彼らのために,後からポスターを見ることができる機会を提供するのも研究紹介の有効な手立てです.ポスターをA4サイズ程度に印刷したものをポスター周辺に置いたり,袋に入れてポスターパネルにかけておくとよいでしょう. また,関連する論文を読みたいと考える人もいます.自分のWebサイトや論文タイトルを紹介するのも重要ですが,あらかじめ印刷した論文を数組用意しておくのも手です.帰りの新幹線やホテル,また学会の休憩時間などに見てもらえる可能性があります.また,このような資料を用意しておけば,細かい数値などあまり覚えていないところを質問されても,「詳しくはこちらに記載しています」と渡せば済むので,気持ちも幾分楽になります. まとめ なるべく不安を感じないようにしつつも,ポスター発表の効果を高めるためのコツを紹介しました.是非試してみてください.また,下の記事ではポスター資料の作り方のコツを見本付きで紹介していますので,こちらもご覧ください.

研究の技術

パラグラフライティングの作法 -書き手にもメリットのある文配置ルール-

パラグラフライティングは,難解な内容を分かりやすく説明するために必須の記述法であり,読み手だけでなく,書き手にもメリットがあります.ポイントは「各段落の先頭行だけを抜き出せば正しい要約ができあがるようにする」ことです.この記事では,書き方の具体例を挙げながら,パラグラフライティングの概要とメリットを説明した後,守るべき5つのルールを紹介します. ※この記事の最新版はnoteに掲載中です 論文はパラグラフライティングが基本! パラグラフライティングは,文章のまとまりを作るルールと,各まとまりの中での文の配置のルールに則って文を書く方法です.そのルールを簡単に言えば,「共通の話題で括れる内容は一つのまとまりとする」というものと,「各まとまりの先頭には最も重要な文を置き,それ以後にはその文の補足説明のための文を置く」というものです.このまとまりのことをパラグラフと呼び,各パラグラフの先頭の文のことをトピックセンテンス(話題文)と呼びます. このような形式で書くのは,論文を書く上での共通ルールです.書きたいことを勝手に好きな場所に書くのではだめですよ,ということです.論文で説明される内容は,意味関係が複雑で,論理構造も難解であるため,少しでも読みやすくするためにこのような共通ルールを守る必要があるのです.下に,ももたろうの話をモチーフにした創作論文の冒頭部分をパラグラフライティングで書いた例を挙げます. パラグラフライティングで書いている例(先頭行を抜き出せば要約が完成): 度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的な対策が必要である.過去30年に渡って続いてきた鬼の襲来の規模にはさほどの変化はないものの,頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えるに至った.村人たちが懸命に蓄えた食料や家財道具は,襲来の度に持ち去られるか,もしくは破壊される.襲来後の再備蓄や修理の作業はもはや徒労でしかなく,村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.このような状況では,鬼襲来への抜本的な対策なしには,村の存続は不可能である.  一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.その理由の一つは,鬼たちに油断が蔓延してきていることである.村人達の抵抗が年々弱まっているためか,襲来に来る鬼の表情からは深刻さが消え,以前は驚異的であった統率も今はないに等しい.もう一つの理由は,これまでは不明であった鬼の本拠地が特定され,到達ルートが見出されたことである.鬼たちに油断がある今,この到達ルートを使ってこちらから遠征を仕掛けることができれば,大きな反撃を加えることができるであろう. 上記の例で,太字にしている先頭文がトピックセンテンスです.各パラグラフにおいて,トピックセンテンス以後の文章はトピックセンテンスの補足説明に終始していることを確認してください.上の文章を要約しなさい,と言われても,簡単にできますよね.先頭文をただくっつければそれで正しい要約ができあがります. パラグラフライティングのメリット パラグラフライティングで書かれた文章の最大のメリットは、要約が簡単なので効率的に読むことができるということです。各パラグラフの先頭文だけを目でなぞるだけで,話のあらすじ(話題展開)と,どのパラグラフにどの話題の説明がなされているのか,という話の構造を把握することができるのです.上記の例で,太字の部分だけを読んでみてください.「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的な対策が必要である.一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.」という話のあらすじがすぐに理解できると思います.このあらすじに納得できればそれ以上読まないでおくという判断ができますよね.あるいは,例えば後半の「状況打開の好機を掴んでいる」という内容が気になるようなら,第2パラグラフだけを読めばそれで済みます. ところが,これがパラグラフライティングのルールに則って書かれていなければどうなるでしょうか.先ほど挙げた例の文の順とまとまりを多少変えた下の例を見てください.全ての文を読めばなんとなく言いたいことはわかるものの,話のあらすじが掴みにくい文章になっていることがわかるかと思います.特に,「村は状況打開の好機を掴んでいる」という情報は非常に重要であるにも関わらず,文字に埋もれてしまって存在感が霞んでしまっています.要約しなさい,と言われたときにこの情報を見つけ出すのが大変で,見逃してしまいそうですね. パラグラフライティングで書いていない悪例(要約しづらい): 過去30年に渡って続いてきた鬼の襲来の規模にはさほどの変化はないものの,頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えるに至った.村人たちが懸命に蓄えた食料や家財道具は,襲来の度に持ち去られるか,もしくは破壊される.襲来後の再備蓄や修理の作業はもはや徒労でしかなく,村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれている. このような状況では,鬼襲来への抜本的な対策なしには,村の存続は不可能である.一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.その理由の一つは,鬼たちに油断が蔓延してきていることである.村人達の抵抗が年々弱まっているためか,襲来に来る鬼の表情からは深刻さが消え,以前は驚異的であった統率も今はないに等しい. もう一つの理由は,これまでは不明であった鬼の本拠地が特定され,到達ルートが見出されたことである.鬼たちに油断がある今,この到達ルートを使ってこちらから遠征を仕掛けることができれば,大きな反撃を加えることができるであろう. パラグラフライティングのもう一つのメリットは、何をどこに書くべきかが自動的に決まるため,書く方にとっても楽だということです.どこに何を書いても自由だと,その配置をどうするべきかに悩んでしまって,時間がかかってしまいます.「どのような内容をどの順で説明するのか」という話題展開の概略(アウトライン)さえ先に決めてしまえば,パラグラフの数と,そのパラグラフの先頭文はほぼ自動的に決まります.あとは,どんな補足説明を加えれば,その先頭文がよりわかりやすく,納得できるものになるのかを検討し,随時後ろに付け加えていけばよいのです. 例えば,「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し,窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的な対策が必要である.一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.」を話題展開のアウトラインとして定めたとします.そうしたら,まずはこれをいくつの話題に分解するかを定めます.今回の例では分解する数を決めるのにいくつか選択肢があります.最初に挙げた例では2つの話題に分けていますが,例えば,「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊している」「窮地に追い込まれているため,鬼襲来への抜本的対策が必要である」「一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる」の3つにしてもよいですし,2番目の話題をさらに前後半で分割して合計4つの話題にしても構いません.これらの文を先頭文としてパラグラフを作り,それぞれに補足説明を加えていったときに,あまりにも文章が長くなるようなら話題文を分割して作り直せばよいですし,短すぎるようなら,前後のどちらかの話題文と合体させて作り直せばよいでしょう(単純に改行を無くしてくっつければいいわけじゃない理由はわかりますよね). 文の配置を決めるための5つのルール ここまででパラグラフライティングのルールについて解説してきましたが,おさらいもかねて,5つのルールとして整理しておきます.各ルールが守られていない具体例も挙げます. ルール①各パラグラフで扱う話題は1つに 同じパラグラフ内に違う話題の内容を混ぜてはいけません.先頭文と違う話題に移るようであれば,そこでパラグラフを分割しましょう.もしくは,そのパラグラフに含まれている全ての話題の要約になるように,先頭文を改善しましょう.「このパラグラフでは一体何について説明しているの?」という質問に対して自信を持って一言で答えられないようであれば、このルールが十分に守れていない可能性があります. ルール①が守られていない例(最終文と先頭文の話題が違う): 度重なる鬼の襲来で村は疲弊している.襲来頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えた.村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.一方で,鬼たちは油断しているようだ.鬼の表情からは深刻さが消えている. 話題文を改善した例: 度重なる鬼の襲来で村は疲弊している一方で,鬼たちは油断しているようだ.襲来頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えた.村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.一方で,鬼の表情からは深刻さが消えているため,油断していると感じる村人は増えている. ルール➁話題の要約文はパラグラフの先頭に! 各パラグラフの先頭には、そのパラグラフで扱う話題において言いたい内容を要約した文章を置きましょう.1つの文章としてパラグラフの内容を要約できないのであれば,複数の話題が混ざっている可能性があるので,その場合はパラグラフを分割することも検討しましょう.「この段落で一番大事な文章はどれか?」と聞かれたときに,自信を持って先頭文を指せるようにしておきましょう. ルール➁が守られていない例(最終行を先頭に置くべき例): 過去30年に渡る鬼の襲来規模にはさほどの変化はないものの,頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えるに至った.村人たちが懸命に蓄えた食料や家財道具は,襲来の度に持ち去られるか,もしくは破壊される.襲来後の再備蓄や修理の作業はもはや徒労でしかなく,村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.度重なる鬼の襲来で村は疲弊し,窮地に追い込まれている. ルール③先頭の文だけであらすじを成立させる! 各パラグラフの話題文は,前後のパラグラフの話題文と話の繋がりがあるものでなければいけません.「このパラグラフを削除してもいいか?」と聞かれた場合に,削除をしてはならない理由を明確に説明できるかどうか,また「各パラグラフの先頭文しか私は見ません」と相手に言われた場合でも不安なく承知できるかどうかが、このルールが守れているかを確認する方法です.このルールが守られていない例は,「パラグラフライティングで書いていない悪例」として先に挙げています. ルール➃話題文を補助する文だけをそのパラグラフ内に! 話題文だけでも話のあらすじを理解させることはできますが,それだけでは意味が曖昧で、イメージが沸きにくく,また根拠に欠けるものになりかねません.そのため,話題文のより詳細な言い換え,具体例,根拠など,各話題を補佐する役割を持つ文章を話題文の後に続けて書きましょう.「この文は何のために書いたの?」と聞かれても困らないよう,明確な役割を持たせて補助文を配置しましょう.言い換えれば,話題文を補助しない文は,そのパラグラフにおいてはいけない,ということになります. ルール➃が守られていない例(最後の一文は不要): 度重なる鬼の襲来で村は疲弊している.襲来頻度は増加の一途を辿り,昨年度はついに100回を超えた.村人たちの生活意欲は失われ,村の経済規模は下落し続けている.鬼たちの特徴は,頭に角が生えており,割と肌の露出が多いことである. ルール➄適切に接続語を置く! 上記のルールを守って書いていれば,話題文同士,そして話題文と補助文の間には必ず関係性が存在します.この関係性を明示する役割を果たすのが接続語であり,適切に置かれた場合には読者が論文の論理構造を把握するための明快な助けとなりえます.例えば,「言い換えると」「すわなち」「例えば」「この理由は」などです.もし十分な考えなしに曖昧で不適当な接続語を置いてしまえば,読者の誤った解釈を誘発し,混乱を招きます.なぜその接続語を選んだのかの明快な理由が説明できないのであれば,不用意に接続語を置くべきではありません. ルール➄が守られていない例(太字の接続語が不適当): 一方で,村は状況打開の好機を掴んでいる.例えば,鬼たちに油断が蔓延してきている.村人達の抵抗が年々弱まっているためか,襲来に来る鬼の表情からは深刻さが消え,以前は驚異的であった統率も今はないに等しい.また,これまでは不明であった鬼の本拠地が特定され,到達ルートが見出された.鬼たちに油断がある今,この到達ルートを使ってこちらから遠征を仕掛けることができれば,大きな反撃を加えることができるであろう. まとめ 上記の5つのルールに則った文章を書くためには,どのような話題展開で自分の言いたいことを伝えるか,という話のあらすじ,すなわち要約文となりうるアウトラインが事前にできあがっていることが必要です.いきなり長い文章を書き始めるのではなく,アウトラインから決めて,パラグラフの大枠を定めるようにするとよいでしょう.アウトラインからパラグラフを作っていく工程のイメージはこちらの記事「パラグラフライティングは絵を描くように」で解説しています.パラグラフライティングの具体例はこちらの記事「『未来のアンドロイド研究』をパラグラフライティングで書く」で紹介しています. 以下のサイトを参考にしました. パラグラフの中の構造・トピックセンテンス

研究の技術

効果的に人の発表を聞くための6つのポイント

研究に携わっていると,人の研究発表を聞く機会がしばしば訪れます.しかし,人の発表の全容を理解することは基本的に困難です.この記事では,できるだけ楽に,かつ効果的に発表を聞く方法を紹介します. ①詳細理解よりも大まかな話題展開の把握を優先する 研究発表を聞くときに絶対に欠かせないのは,難解で細かい説明に囚われすぎることなく,大まかな話題の展開,すなわち「あらすじ」を見失わないようにすることです.あらすじさえ理解できれば,細かい内容については後からでも質問をして理解を深めることができます.「細かいところは分からなくてもいいから,とにかくあらすじは絶対に理解しよう」というつもりで聞くとよいでしょう. ポイント➁話題の要点と切り替わりに敏感になる 単に話された内容を漠然と聞くだけではあらすじを把握することは難しいです.特に,研究発表に慣れていない人の発表では,今の話題が何で,その話題について結局何が伝えたいのかを明確に表現されず,さらには話題の移り変わりも曖昧なので困難です.発言内容の中で,話題と,話題の要点と,話題が切り替わるタイミングを掴むためのヒントを逃さないようにしましょう.接続語に気を配るとうまくいきやすいです.「そこで」や「しかし」などは話題の切り替わりを示す言葉です.「つまり」「したかって」などは要点を言おうとしている可能性が高いです. ポイント➂しばしば出てくる専門用語の意味は確実に理解しよう 複数回出てくる専門用語は,あらすじの把握において重要なキーワードであることが多いです.その専門用語の意味がわからないままだと,その先の話を聞いたところで意味がわからないことになってしまいます.専門用語の解説をしっかり聞き漏らさないようにしましょう.わからない場合はその場でインターネットで調べたり,直接本人に確認をして勘違いのないようにしましょう. ポイント➃具体イメージで話を捉えよう 専門的かつ慎重に説明された内容は抽象的になり過ぎていて,実感として理解しにくいことが多々あります.抽象的な説明は,自分なりに「例えば~ということかな」とか「この分野でいう~のことかな」のような具体的なイメージとして捉えましょう.そのイメージを持った上で説明を聞き進めれば,もし理解が間違っていた時に気づきやすいという利点もあります.その具体的なイメージに自信がない場合は,「この説明は、〜のようなものだと理解して構わないでしょうか?」と質問すればよいでしょう. ポイント➄自分なりに説明に解釈をして話を予想しよう ある話の説明がひと段落つきそうなときには,自分だったらそれをどのような主張に繋げるかを考える癖をつけましょう.同じような話題展開が為されれば,安心して次の話を聞けて,自信にも繋がります.また記憶にも残りやすいはずです.もし違う話が為されるようであれば,自分に勘違いがないか,なぜその話者はそのような話に持っていったのかをを考えてみましょう.わからなければ、例えば、「私はこの様に解釈したのですが,その解釈は成り立たないでしょうか?」か,「この問題に対してはこのようなアイデアの方がよいと思うのですが,そちらではなぜだめなのでしょうか」などのように質問してもよいでしょう.自分の考えに自信がある場合はあえて質問をせず,自分の研究テーマにしてしまうのもありです。 ポイント➅主張の根拠を確認しよう 「〜だと考えます」とか「であると言えます」のように何かに解釈を加えて結論づけた主張がなされたときには,その主張の説得力を支える根拠が何かを整理してみましょう.根拠が明確でない場合は,「そのように解釈できる根拠はどこにありますか?」「その方法が適切だと考える理由はなんでしょうか?」「その結論はどの結果をうけてなされたものでしょうか?」などのように質問をするとよいでしょう.論理の穴を見抜きましょう。研究の論理の穴を見抜くことから新しい研究が生まれます。別記事で紹介している論理のピラミッド構造を意識しておくことは、ここでも役立ちます。