子供アンドロイドに向けられる対乳幼児発話の分析

研究テーマ

子供アンドロイドに対して向けられる発話を記録して音響的に解析し,大人が子供に向けるような特徴的な発話がどのように表れるかを調べる研究を行っています.理化学研究所 脳科学総合研究センターの馬塚れい子先生の研究室との共同プロジェクトです.

発話データの収集(2015年)

発達心理学の言語獲得研究において,幼い子供に向けられる発話の特徴が調べられてきました.この研究分野では,対乳児向け発話(Infant-directed speech)と呼ばれるその特徴的な発話の特徴や役割を明らかにするため,幼い子供に向けられる発話と,それ以外の相手に向けられる特徴的な発話(例えばペットや外国人,あるいはカーナビ相手の発話)との比較分析が行われてきました.幼い子供だけを相手にした研究では,子供が好き勝手に動いてしまうため,分析に適うデータを集めるのが難しいためです.とはいえ,子供ではない相手に向けられる発話には,対乳児向け発話に見られる特徴の一部しか含まれないため,十分な比較分析ができないという現状がありました.

そこで,動きや外見を調整した子供型アンドロイドを使う方法を提案しました.もし,それに向けられる発話が対乳児発話と匹敵する特徴を備えていれば,対乳児発話を研究するための新たなツールとなりえます.そこで,21人の幼い子供を持つ母親を集め,(a)対乳児発話,(b)対子供型アンドロイドロボット向け発話,またそれに加えて(c)対大人向け発話を,同じ状況下(変わったおもちゃの名前を相手に教える場面)で記録収集しました.合計で29時間分の録音音声に対し,文字のタグづけと韻律ラベリング(X-JtoBI)などの事後処理を実施しました.このようにして得られた音声データに対し,印象評価や音響的評価を実施していきます.

発話印象の比較評価(2015年)

まず,発話印象の評価を行いました.対乳児発話,対アンドロイド向け発話,対大人向け発話の音声データから,同じおもちゃの名前を話している部分を抜き出し,18-24歳の第三者に聞いてもらい,それらの発話が,どの程度,幼い子供に向けた母親の発話に聞こえるか,を問う7段階評価を行ってもらいました.その結果,対乳児発話対アンドロイド向け発話の印象評価に有意な差はなく,そしてどちらも対大人向け発話よりも,より幼い子供向けの発話に聞こえる(p<0.001基準のt検定で有意),と評価されました.つまり,子供型アンドロイドロボットは,少なくとも第三者が聞いて対乳児向け発話に聞こえる発話を母親達から引き出すことができた,ということが確認できました.

参考文献:

  1. Ryuji Nakamura, Kouki Miyazawa, Hisashi Ishihara, Ken’ya Nishikawa, Hideaki Kikuchi, Minoru Asada, and Reiko Mazuka. Constructing the Corpus of Infant-Directed Speech and Infant-Like Robot-Directed Speech. in Proc. of the third international conference on Human-Agent Interaction (HAI 2015). pp. 167-169. Daegu, South Korea, October 21-24, 2015.

馬塚れい子先生の研究室

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