[:ja][サーベイ]脳機能計測手法 – NIRS[:]

[:ja]NIRSとは,近赤外光を利用して物体内部の状態を非破壊的に調査する手法のことであり,近赤外分光法(Near-infrared Spectroscopy)の略語である.近赤外線より高い波長の光(可視光)は生体への透過性が高くなく,またより低い波長の光は水に吸収されやすいために熱作用を起こしやすい[1].そのため,生体の内部を調査する上で近赤外光は適した周波数体にある.もともとは,農作物の非破壊検査法として発展してきたが,90年代頃から脳活動計測にも応用できることを示す実験結果が報告され始め,現在のNIRSを用いた脳機能イメージングである光脳機能測定(あるいは簡単にNIRSと呼ばれる)へと発展した[1].

光脳機能測定とは,NIRSの技術を利用して脳内のヘモグロビンの酸素化状態の変化を測定し,画像化する手法である[1].これには,酸素化したヘモグロビン(oxi-Hb)と脱酸素化したヘモグロビン(deoxi-Hb)ではどの波長の光をどの程度吸収するか,という吸収係数が異なるという特性が利用されている[1].すなわち,複数の種類の波長の近赤外光を当て,それらの反射光を計測することで両者のヘモグロビン量と比率を連立方程式の解として求めることができる[1].脳部位のoxi-Hbは,血流の増加に応じて増加する(deoxi-Hbはわずかに減少する).そして,血流の増加は,神経活動に伴うものである(神経血管カップリング,あるいは脳循環反応と呼ばれる).したがって,NIRSは脳部位の神経活動の度合いを間接的に捉えることができる(NIRSは灰白質と呼ばれる脳表面の浅い部分の賦活を捉えている)[1].ただし,神経活動から血液量増加に至る詳細な機序は明らかになっておらず,また脳血流の増加範囲は神経活動の亢進した部位よりも広いという特徴があるために空間解像度は高くなく,ピンポイントの活動部位の議論には適さない[1].また,光源から出た光は様々なルートを介して検出器にまで戻ってくるため,一度の測定だけでは活動度を推定するのは難しい.そのため,あるタスクの前後の信号を計測し,それらの差を取るという工夫が必要となる[1].つまり,計測チャンネル間の比較や,非連続な経時データの比較にはある程度の論理的飛躍があるといわざるを得ない[1].しかし,空間的なデータの直接的比較は現在のところ極端な非合理性はないと考えられている[1].

また,「光トポグラフィ」という名称は日立メディコの光脳機能測定装置のことをさすことが多く,他の装置提供会社である島津製作所の装置は「近赤外イメージング装置」あるいは「fNIRS(functional NIRS)」,浜松ホトニクスのものは「マルチファイバアダプタシステム」という名称で呼ばれている.これらは,「光脳機能測定」や「NIRS」と言った名称で総称されることが多い.

他の脳機能計測手法と比較して,以下のような利点と欠点がある[1].
利点
1.被験者の体の位置や向きの制約がない(動作時でも計測できる)
2.大きな動作音がしない(聴覚刺激が影響する実験に有利)
3.無害な光で安全性が高い(繰り返し実験できる.乳幼児や老人にも使える)
4.操作するのに資格が必要ない(異分野でも手軽に使える)
5.比較的安価(/*いくらくらい…?*/)
6.操作しやすい(/*マニュアルみたい…*/)
7.時間分解能が高い(市販のものでも10fps)
欠点
1.結果の解釈が完全には確立されていない(/*考察が難しい*/)
2.定量性がないとの批判がある(/*いかんともしがたい?*/)
3.空間分解能が低い(1~3cm程度)
4.速い神経活動の変化を検出できない(/*どんな情報なら得られるか?*/)
5.脳の血管障害などがあると,解釈が難しい(血流量と脳活動の関係が典型的でなくなるため)
6.脳深部の測定はできない(頭皮下2~3cmの皮質まで)

上記をまとめると,NIRSは,「自然な状態での被験者の大脳皮質の賦活反応性の時間経過を,非侵襲的で簡便に全体として捉えることができる検査」だといえる[1].そしてこれらの特徴から,精神疾患の臨床検査に適したものであると考えられている.
参考:
[1]精神疾患とNIRS(福田正人,中山書店)[:]

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