GCOE「認知脳理解に基づく未来工学創成」第一回シンポジウム 聴講メモ

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阪大基礎工学部の石黒浩先生を拠点リーダとする阪大GCOEプロジェクト「認知脳理解に基づく未来工学創成」の第一回シンポジウム.2009年8月24日開催.

阪大の鷲田清一総長の挨拶から始まり,石黒先生によるプロジェクトの概説の後,関連する分野の先生方の講演が行われた.

吉峰俊樹先生(医学系研究科)「脳科学と工学の融合:ブレインマシンインターフェースの可能性」
脳科学と工学を結びつける領域であるBMI研究の現状と,問題点,GCOEへの期待について講演された.吉峰先生はこれまで,硬膜上に電極を設置する侵収型BMIについて研究されている.この手法は,頭蓋の皮膚に電極を配置する非侵収型BMIに比べると,外科手術を要する分手間がかかり,衛生上の問題から長期に渡って使用することは現状では出来ないが,少ない電極で精度のよい意図推定ができるという大きなメリットがある.最新の研究成果として,運動野のあたりに四つの電極を配置し,それらの感知した脳波の変遷の組み合わせパターンから,グー,チョキ,パーの三種類の指の運動を0.5秒ほどの計算時間で推定できるシステムについて解説があった.このシステムの応用として,これら三種の運動を”しよう”と考えるだけでディスプレイ上のマウスカーソルを動かすシステムや,ロボットハンドを動かすシステムが紹介された(実際に指を動かさなくてもその意図が推定されるため,このロボットハンドは実際の被験者の指の運動よりも早くその運動をすることがある!).BMIの将来的な展望としては,運動機能や会話機能の不十分な方の支援装置といった,健常者の能力レベルへの能力補填装置としてだけでなく,同時・多言語翻訳や,大型ロボットの操縦など,健常な能力をさらに引き上げて超人間的な能力とするような装置にも応用が可能であるという.しかしながら,そのためには工学の技術やセンスがどうしても必要となるため,このGCOEプログラムはBMI研究にとって大きな期待ができると述べられた.

畑澤順先生(医学系研究科)「脳科学:脳機能イメージング」
阪大に設置されているMEGを用いて,認知発達に伴う脳活動の変化を調査し,認知症患者の脳には何が起こっているのかという問題について得られた仮説について報告された.MEGは非侵収で脳活動を三次元的・時間的に観察することを可能にする技術である.近年高齢者の認知症が大きな問題になっているが,一口に認知症といっても,物忘れがひどくなるといった程度の軽度認知症から,生活に支障をきたすほどの学習や注意などの認知能力の障害を引き起こすアルツハイマー型認知症など様々なものがあり,それらの問題を引き起こす直接の原因や障害部位は諸説あり,明らかになっていない.畑澤先生は,認知症が,小学生から高校生,そして成人にいたるまでの認知能力の発達過程を逆に辿るような過程を経ることから,これらの発達過程における脳活動の変化をみることで,認知症の問題部位についても検討することができるのではないかと考えた.観察の結果,主に記憶を形成するために働く部位である海馬のあたりに関して,小学生よりも高校生の方が活動が活発であること,また記憶に基づいて状況を判断するための部位である頭頂連合野のあたりに関して,高校生よりも成人の方が活動が活発である様子が見られた.このことから,軽度認知障害は,海馬機能に関する高校生から小学生への逆行であり,アルツハイマー型認知症は,頭頂連合野に関する,成人から高校生への逆行ではないかと考えられる.これらの推定は,脳機能イメージング技術の性能に大きく依存する.MEGなど既存の技術は,人の認知能力を詳細に知るためには時間的・空間的分解能が十分でないし,それらの能力の限界はその手法のイメージング対象(血流や磁場)によって決まってしまうため,これ以上の改善は望めない.したがって,この分野のさらなる発展のためには,新たなイメージング技術の開発が必要であると主張された.

藤田一郎先生(生命機能研究科)「脳科学:認知脳科学・システム脳科学の立ち位置と目指す方向」
脳の機能は,分子レベルから,シナプス,ニューロン,ネットワーク,マップ,システムを通じて中枢神経系のレベルに至るまで,様々なレベルの階層構造を持っており,それぞれのレベルに特有の問題が存在するため,これまではそれぞれ別々に研究されてきた.しかしながら,脳の持つ心や行動に関する能力を理解するには,これらをすべて一まとめにして考えることが必要である.藤田先生はこのような観点で見る脳のことを認知脳を呼び,研究をしておられる.今回の話は主に宣言的記憶に関するものであり,この能力を司る部位に関しては長年の論争があったが,最近では嗅周皮質と呼ばれる部位であるとして議論が落ち着きつつある現状について講演された.

苧阪満里子先生(人間科学研究科)「認知科学:行動記憶の認知科学」
記憶は長期記憶と短期記憶だけしかないと考えられがちだが,この他にも”行動を導く記憶”であるワーキングメモリと呼ばれるものもあり,これが人の認知において重要な働きをしている.苧坂先生は,ワーキングメモリに注目して,心に関する脳科学の分野の研究を行って折られる.この講演では,ワーキングメモリに基づく認知モデルや,その働きについて紹介された.

三浦利章先生(人間科学研究科)「認知科学:注意の認知科学」
実世界での応用や,社会への提言を意識した認知科学研究の重要性を指摘された.三浦先生は,車両の運転中における認知傾向についての研究を行っており,実際の運転中の有効視野や視点の移動量が,飲酒量とどのような関係があるかについて調査し,有効視野には広さと深さのトレードオフがあること,また軽度の飲酒時にはまず視野の移動量が減少し,さらなる飲酒で有効視野が狭まっていくことなどを確認された.その他には,有効視野の注意は,予測によって勾配を持つようだが,高齢者ではこの勾配の修正が遅いとの仮説や,注意の焦点の移動は,遠くから近くへは早いが,近くから遠くへは遅いというラバーバンドメタファー仮説について紹介があった.理系の科学者や開発者などは,このようなことを考慮せずにシステムを開発しがちであったり,飲酒運転を取り締まる法律も明確な根拠がなかったりするが,このような認知研究によって,具体的な助言が可能なのではないかと述べられた.

浅田稔先生(工学研究科)「ロボット学:認知発達ロボティクス」
仮説の検証が難しい心理学や脳科学の仮説を構成的に検証するためのロボット学の現状や,その研究価値を確立していく上での課題などについて説明された.ロボット研究者が,心理学や脳科学の知見に基づいてシステムを構築する場合には,それらの分野の知識を持たなければ説得力のあるものにはならない.従って,それらの分野の知識を得る場が必要であり,その意味で本GCOEの存在意義は分野をまたいだ教育にあるということを講演された.

中山康雄先生(人間科学研究科)「哲学:科学・工学のための哲学」
人間を知るための工学のあり方について,科学哲学の観点からの提言をされた.ある機能をもつシステムは,その動作主体(人間)だけに注目されがちだが,動作主体が作用を及ぼすための道具もその主体に含めて考えなければいけない(“主体の二重性”).このような観点で色々なシステムを見ると,そこにはシステムのフラクタル性とでも言うべき,主体の入れ子構造がある.このようなものとしてシステムを扱い,その構造を捉えて社会になじみやすいシステムを構築していくことが工学には求められるのであり,”心の本質とは何か”というような問題を直接扱うことはそれほど大事でない.すなわち,工学に求められるのは,未来に向かっての共生のモデルの提案であり,そのために行うべきことは,心の構成のメカニズムの解明と,設計的視点の導入による共同体構成の原理の解明であるということを述べられた.

茂木健一郎先生(ソニーコンピュータサイエンス研究所)「認知脳システム学への期待」
すぐに実用に結びつくような脳研究も大事だが,一方で意識といったような問題にも取り組んで行かなければならないということについて,いくつかの研究成果や関連するエピソードを交えながら主張された.茂木先生はクオリア問題を解決することをライフワークとされており,その解決のためにはこれまでの脳科学の研究成果を何らかの観点でまとめなおさなくてはならないという.そしてその観点として,規則性と不規則性が混ざった状態である”遇有性”に注目していることを述べ,その観点から自己認識の問題や自由意志の問題について紹介があった.これらの問題は人間の研究者だけでなく,知能ロボットを扱う研究者にも近い将来振るかかってくる問題であり,このような観点をもつ研究者が育つことを期待していると述べられた.

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