研究者のセルフブランディング

研究の技術

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研究者の使命の一つはその能力により生み出される価値の最大化であり,そのためには「研究者としての自分のブランディング」が欠かせません.この記事では,このようなセルフブランディングについてまとめます.

セルフブランディングとは

数多くの研究テーマを扱う研究者は大抵全てのテーマに一貫した発想や思想を備えています.セルフブランディングとは,そのような自分の一貫した価値観を他者に対する強みとして自認し,また社会にも認知させ,自分の活躍に有利な差別化を図ることです(差別化の効果についてはこのブログでよく紹介されています).ざっくりいえば,「あの人はあれを大事にしてる研究者だから一緒にやりたいな」とか「あれといえばあの人だから,今回のプロジェクトはあの人に任せよう」といって選んでもらえるようになろう,ということです.

なぜブランディングが必要か

研究者が能力を存分に発揮して価値を生み出し,また増大させるためです。それには「限られた研究資源を最大限に活用する」ことと「自分の研究の助けになりうる人に選んでもらえる」ことが必要です.企業がブランディングによって戦略的な投資と他社との差別化を図って生き残ろうとしているのと同様に,研究者もブランディングに基づく研究資源の効果的な投資と他の研究者との差別化が必要です.特に若手の研究者にとっては,研究の世界に生き残るためには欠かせない要件であると考えます.

もしブランディングがうまくいけば、下記のような効果が期待できるでしょう.

1.合理的な投資判断ができるようになる

世の中の全ての技術や知識を備えるための十分な時間はありません.また,予算にも人材にも限りがあります.したがって,どのような技術・知識の蓄積を優先させるのか,どのような研究機材を自前で購入するのか,またどのテーマについて誰に研究を分担してもらうのか,といった時間・金銭・人材資源の投資判断を合理的に行うことが求められます.この判断の基準が場当たり的で曖昧であれば,結果的に投資が失敗して研究の効率が低下した場合に,先の投資判断のどこがまずかったのかを分析することができなくなってしまいます.したがって,投資先は何らかの明確な判断基準のもとで合理的・計画的に決定されるべきです.

セルフブランディングによってはっきりさせた研究者としての価値観は,この判断基準に成りえます.例えば,自分の価値観の軸の上で高い価値を生み出す可能性の高い資源には積極的に投資し,そうでないものには,たとえそれが別の価値観においては有用な資源(例えば,他の研究室が活用して成果を生み出している設備等)であっても,投資を抑える判断をするというやり方があります.このようなやり方は単純ですが徹底すれば強力です.このようにしておけば価値観の設定が適切であった場合には資源の集中によって研究活動は効果的なものになっていきます.もしそれで研究活動の効果があがらない場合には,価値観の再設定が必要だと気づくことができるのです.

2.人に選んでもらいやすくなる

研究を自分の資産と努力のみで実施しようとするのでないなら,誰かの支援を得なければいけません.例えば,研究機関に雇用してもらって研究者としての時間を保証してもらったり,研究費審査配分機関(JSTやJSPS等)や企業に研究費用を援助してもらったり,他の研究者や学生とグループを組んでもらったりする必要があります.これらの支援を得るには,助けてくれる人に自分を選んでもらう必要があります.

ブランディングは,人に選んでもらう理由付けでもあります.ブランディングによって自分の価値観を社会に認知させ,他の研究者との差別化に成功すれば,「他の研究者でなく自分が支援を受けるべき理由」が明確になります.そうなればアピールもしやすいですし,選ぶ方も自信を持って選べます.その結果,例えば限られた研究者枠に雇用されることに成功したり,採用数の少ない研究公募(科研費等)に採択されたり,他の研究グループに招待されたり,さらには一緒に研究をしたいという意欲をもった研究者や学生が集まってきてくれたりします.もちろん,設定した価値観が明確であっても,それが共感を呼ばないものであれば逆に「選ばれない理由」が明確になってしまいますので,その点は注意が必要です.

ブランディングの要素

研究者のセルフブランディングを実施するにあたり,企業で行われているブランディングが参考になります(研究者と経営者の類似についてはこのブログでも指摘されていますね).企業向けのブランディングの基本は,コンセプト、ターゲット、ポジショニングの三点を考えることにあると言われています(例えばこのブログ)。この三点がしっかりしたものであれば,これらを基盤とした効果的な行動戦略を立てることかできるからです.ここでは,これらの三点を研究者のブランディングの観点でみてみましょう.

コンセプト = どんな価値を生み出すか

コンセプトとは,価値観の表明です.あなたはどんな価値を生み出そうとする研究者ですか,という質問に対する答えに相当するものです.理想や強み,他と差別化できる点が表現されたものであり,またわかりやすく,面白く,想像を掻き立てるものがよいとされています.研究活動全般の基盤となる価値観であり,研究者としての人となりを表します.例えば著者の研究のコンセプトは,「アンドロイドロボットの身体機能を向上させてその潜在的な利用価値を高める.そしてその過程で得られる特徴的な要素技術を社会に浸透させる.」です.

ターゲット = どこで活躍するか

ターゲットとは,価値観を訴える対象です.あなたはどこで活躍しようとしていますか,という質問の答えに相当するものです.学術誌・学会といった学術的な領域でもよいし,具体的な人々の集団や場面でもよいかと思います.ターゲット毎にブランディング戦略(どうやって価値を訴求するか)を決定する必要があるため,初めは主なものに絞るのがよいかと思います.筆者の場合は,「Social robotics, Android science, Developmental robotics」となります.

ポジショニング = 立ち位置はどこか

ポジショニングとは,他と比べた立ち位置のことです.あなたがやっている研究はあのグループの研究とどこが違うのか,という質問に対する答えです.大事なのは,似た(ように他から見られる)研究をやっている複数の競合グループとの違いを表現できる評価軸をはっきりと示すことです.その軸の中で,自分や競合グループの立ち位置を明確に示さなければいけません.筆者のグループは,アンドロイドロボットで世界的に著名な阪大の石黒浩先生のグループとしばしば混同されます.光栄ではありますが,差別化に成功しなければ別グループでやっている意味はありません.「ソフトウェア開発(身体の利用) – ハードウェア開発(身体の改善)」「象徴的コミュニケーション – 身体的コミュニケーション」「大人型 – 子供型」という三つの軸の中で独自のポジション(触れ合い易い子供型アンドロイドロボットの身体の高機能化)を築こうと努力してきましたが,石黒先生のグループのテーマはこの三次元の研究実施空間においても広い領域を覆っているため,なかなか差別化に苦しんでいます.今のところは「応用 – 基礎」の軸における基礎よりの研究を増やして踏ん張ろうとしています.

まとめ

若手研究者はまだ業績が少なく,技術や知識も先輩研究者には及びません.だからこそ,自身のブランディングに対してより強い意識を持ち,質のよい価値観を持てるように努力する必要があると思います.質のよい価値観が持てれば,いずれ業績を増やし,技術や知識を拡大させていくチャンスをより多く得られるようになると信じます.

追記

コンセプトは,研究と教育とで別々のものを設定してもよいかと思います.筆者の研究のコンセプトは上に記載した通りですが,教育のコンセプトには「研究の場以外でも役立つ基礎技術を明文化して研究実践の中で身につけさせる」という別のものを設定しています(この研究技術ブログの運営はこのコンセプトに基づく教育活動の一環です).このコンセプトのターゲットは,「学士や修士で卒業して企業に就職する学生」です.

 

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