研究発表で受けた質問から発表資料の改善指針を得る方法
研究発表が終わった後,受けた質問も資料もそのままにしていませんか?研究発表が上手くなるには,発表後の振り返りが必須です.この記事では,発表で受ける質問に対する基本的な捉え方と,質問の分析によって発表資料の改善指針を定める方法を紹介します.
分析と改善指針策定の流れ
分析と改善指針策定の流れは下記の3ステップです.
- 質問の背後に隠れた質問者の思惑を探る
- 思惑に基づいて質問を「広さ」と「深さ」の二軸で分類する
- 分類毎に資料改善の方針を定める
この記事の以下では,質問の基本的な捉え方を説明した後に,上記の各ステップを解説します.
質問の基本的な捉え方
質問には少ないほどよいものと,多いほどよいものがある
研究発表がどれほどうまくいったのかを知るために,まずは発表で受けた質問の種類とその割合を振り返ってみましょう.質問は「内容確認質問」と「発展質問」の2種類に大別できます.そして,内容確認質問はより少なく,発展質問はより多いほど,研究発表はより上手くいったという風に評価することができます.
内容確認質問というのは,記載されている内容の意味や詳細,妥当性を確認するための浅い質問であり,例えば「そこで言っている意味がわからないのですが」や「どうすればそのグラフからそのような結果を読み取れるのですか」といったものです.もう一方の発展質問というのは,記載されている内容の理解を踏まえた上でなされる発表範囲外の論点での質問であり,例えば「その結果が正しいとしたらこういう可能性もありますが,どのようにお考えですか」や「今回得られた結論から,他には何が言えそうですか」といった本質的で深い質問です.
内容確認質問はプレゼンのミス.ゼロにしていこう.
内容確認質問は,プレゼンのどこかで説明に失敗したことの証です.怖いことに,軽微な失敗のようでいて,実はプレゼン全体の理解度や説得力を著しく損なわせる致命的な失敗であることがあります.そのため,内容確認質問はゼロになるのが理想です.単なる簡単な確認質問だったと高をくくらずに,次の発表では二度と同じ内容確認質問がでないようにするぞ!という意識を持つようにしましょう.
発展質問はプレゼンが成功したことの証.増やしていこう.
発展質問は,発表中に紹介した内容を聴衆に十分に理解させ,また思索を巡らす余裕も与えることに成功した証拠です.発表資料をうまく作成できたことの確認にもなりますし,自分の成果を聴衆に理解してもらえ,さらにはアドバイスももらえたことになります.さらに多くの発展質問が貰えるように資料を改善することを目指しましょう.
質問の分析
ステップ1:質問の背後に隠れた質問者の思惑を探る
内容確認質問と発展質問の割合の振り返りが終わったら,いよいよ個別の質問の分析です.分析を行う上では,質問の言葉面だけを捉えるのではなく,「質問者が本当に質問したかったこと」を探り,その上で分析を進めることが重要です.質問者は質問のプロではないため,「本当に質問したかったこと」と「質問として投げかけた言葉」が一致するとは限りません.質問者の思惑を精度よく推定できていればいるほどより効果的な資料の改善ができるので,しっかりと思惑を考察できるようになりましょう.
質問者の思惑は様々です.例えば以下のようなものがあります.
- 単に内容を確認して,その内容がどうであっても確認が取れたらそれで納得だ.
- 内容の根拠が正しいかあやしい.もし根拠が正しいならそれで納得だが,そうでないなら他の内容についても反論したい.
- 内容はよくわかったので,研究の発展を期待してその内容を踏まえたアドバイスをしたい.
- 質問はするが,その質問に対する自分なりの考えを言いたくてうずうずする.
- 珍紛漢紛状態で,何から質問すればよいのかわからないが,とにかく何か理解するきっかけが欲しい.
- 質問をして,もしこういう答えが来たら次にこの質問をしよう.
- 特に聞きたいことではないが,他に質問が出ないので簡単な確認の質問をしてあげよう.
これらの思惑を探るには,質問者の言葉や表情のニュアンスや,あなたの回答に対する反応に注目するとよいでしょう.質問の思惑が分からなければ,発表後にそれを尋ねにいくことも大事です.質問を受けた際には常に相手の思惑を探る意識を持ち,その確からしさを確かめるような質疑応答を繰り返すことで,次第にうまく探れるようになるでしょう.
ステップ2:思惑に基づいて質問を「広さ」と「深さ」の二軸で分類する
質問者の思惑を精確に捉えられないとしても,ある程度の分類ができれば大丈夫です.質問は「広さ」と「深さ」の二軸で分類することができます.まずは各軸二分割の分類から始めましょう.つまり,質問が「狭いか,広いか」と「浅いか,深いか」の2×2の合計4種類のいずれに当てはまるかを考えましょう,ということです.
質問の広さというのは,発表で扱ったどれだけの内容に関連する質問か,という見方です.関連する内容が少ないほど,狭い質問だということです.質問の深さというのは,発表で扱った話題からどれほど(論理的に)離れた話題の質問か,という見方です.扱った話題そのものについての質問であれば浅い質問であり,一方で,その話題からより多くの論理展開を経た先の話題であるほど,深い質問だということです.この記事の冒頭で紹介した,内容確認質問は浅い質問であり,発展質問は深い質問です.
例えば,上で挙げた7つの思惑についての分類は下記のようになります.
- 狭く,浅い
- 狭く,深い
- 広く,深い
- 狭く,浅い
- 広く,浅い
- 狭く,深い
- 狭く,浅い
大雑把な分類なので分類の根拠が曖昧なところもありますが,広さと深さで思惑を分類できることがわかると思います.
ステップ3:分類毎に資料改善の指針を立てる
上記のような質問の分類は,資料改善の指針を立てる上で大変有効です.下の図は,質問の分類毎にどのような資料改善指針とするべきかの基本的な考え方を示しています.
まずは浅い質問についてみていきましょう.図の左上の欄の狭くて浅い質問に対しては,指摘箇所の軽微な修正で十分であることが多いです.言葉の表現を改めたり,補足説明を追加するなどです.最も簡単に修正を終えられます.
右上の欄の広くて浅い質問に対しては,質問の発端となった発表箇所を見分けて,そこをピンポイントで修正する必要があります.質問者に疑問を浮かばせた発端となる箇所を適切に修正できない限りは,それ以外の場所を修正したとしても,また違った形で質問を受けることになるからです.簡単なようでいて,実は難しい修正です.
次に,深い質問についてみていきましょう.左下の狭くて深い質問に対しては,発表資料に安易な変更を加える前に,質問者に質問の背後にある思惑を尋ねたり,このように話しておけば納得できていましたか,という確認を取りにいくのが望ましいです.というのは,深い質問をなくすためには,スライドの追加や順番の並び替えなどの大工事が必要になる場合があり,間違ったやり方で修正をしてしまったときの時間と労力の無駄が大きいからです.親切な質問者であれば,「あそこの部分にこの説明があるだけで納得できたんだけどね」とか,「そこまで修正する必要はないよ」というアドバイスをくれます.ときには修正のアドバイスだけでなく,「実はあの質問をしたのは,こういう考えもあるんじゃないかと思ってね」といったアイデアをもらう可能性もあるでしょう.狭い部分に対して深い質問をするときには,質問者の頭の中には具体的な論理が展開されているからです.大変貴重な質問です.
右下の広くて深い質問に対しては,すぐに資料の細かい修正に取り掛かる必要はありません.この種の質問がくるのは,発表の全容が上手く伝わった場合のみなので,細かい修正に囚われるよりも,研究全体のグレードアップを図るべきときなのです.得た質問を,今後研究が向かうべき方向性の参考とするのがよいでしょう.
まとめ
『質問の背後に隠れた質問者の思惑を探る』『思惑に基づいて質問を「広さ」と「深さ」の二軸で分類する』『分類毎に資料改善の方針を定める』というステップを紹介しました.発表後の振り返りとして紹介しましたが,実際には,質問を受けたときに質問の分析を始め,質問者の思惑を探るための質疑応答を行えるのが理想です.