「絶対に守るべき」発表スライドの3つの基本ルール

研究技術解説

スライド形式の資料を用いて「新奇難解な論理」を「短時間で分かりやすく」説明するには,一つ一つのスライドを作る際に3つの基本ルールを守ることが肝要です.この記事では,「3要素明確化」「絞り込み」「視覚化」という3つのルールについて解説します.これらのルールを守る上で便利なスライドテンプレートは別記事「分かりやすい発表スライドを作れる研究発表用テンプレート」で公開しています.

3つのルールとは

この記事で紹介する3つのルールとは,

    1. 3要素明確化』- 各スライドでは「話題」「話題の要点」「要点の捕捉情報」の3要素が明確に書き分けられていなければならない
    2. 『絞り込み』- 話題の要点を確実に納得させる上で役に立たない情報は記載してはいけない
    3. 『視覚化』- 記載内容の重要度や関係性は視覚的に表現されていなければいけない

というものです.下記では,これらのルールが守られていない例と,守られている例を紹介した上で,各ルールの詳細を説明します.

3つのルールが守られていない「3ない」スライドを作らないようにしよう

下の図は,3つのルールが守られていないスライドの例を示しています.このスライドは,要点が明記されてい「ない」,話題が絞り込めてい「ない」,情報が視覚化されてい「ない」という学生さんの作りがちな「3ない」スライドです.聴衆の頭には,図の右に記載したような疑問が次々に浮かんでしまい,混乱状態に陥ります.ついには,書いてある内容自体を理解するだけで精一杯になり,研究の面白さや意義について感心したり思索を巡らす余裕がなくなってしまいます.このような,3つのルールが守られていない「3ない」スライドは絶対に作らないようにしましょう

3ないスライドの例.要点が分かりにくいため,聴衆を混乱させ,本質的な部分の理解や思索を妨げる.絶対に作らないようにしよう.

 

3ないスライドはルールを守れば格段に分かりやすくなる

上記のような3ないスライドは,この記事で紹介する3つのルールを守れば格段に分かりやすくなります.下の図は,先ほどのスライドを改善した例です.スライドの基本ルールについて,「3つのルールを厳守することが大事」だと言いたいスライドであることがすぐにわかるようになっています.さらに,3つのルールがそれぞれどのようなものであるのかも一目でわかるようになっています.

3ないスライドの改善例.話題についての要点が明確で概要も掴みやすいため,聴衆が混乱しない.このようなスライドを目指そう.

このように見通しのよい分かりやすいスライドが用意されることによって,聴衆は思考を表層的な部分に留めることから解放され,「ほかにも大事なルールがあるのではないか?」や「視覚化のルールを守るために他にどんな工夫があるか?」といった深い思索をすることができるようになります.そうなれば,聴衆から良いコメントやアドバイスがもらえる可能性が高まります.以下で解説する3つのルールをよく理解して,ルールを守ったスライドが作れるようになりましょう.

ルール①「3要素明確化」

『各スライドでは「話題」「話題の要点」「捕捉情報」の3要素が明確に書き分けられていなければならない』

一つ目のルールは,各スライドにおいて「話題」と「その話題の要点」,及び「要点の補足情報」を明確に書き分けましょう,というものです.簡単なように思えますが,全てのスライドで徹底するのは大変難しいことです.実際,(1)1つのスライド中に複数の話題が混ざっていて何の話をしているのかよくわからない,(2)話題の要点が補足情報の中に埋もれてしまっていて結局何が言いたいのかわからない,(3)説明の必要性がわからない細かい情報で溢れている,ような分かりにくいスライドをよく目にします.これらのスライドでは,3要素が明確に書き分けられていないのです.

3要素の明確化によって,「話題の要点が一目で分かり,その要点について十分に納得でき,もし話の流れを見失っても今扱われている話題がすぐに確認できる」という理想的なスライドにすることができます.下の図は,明確にすべき3要素の関係を図解したものです.以下では,3要素を書き分けるための具体的な方法をを説明します.

一つ目のルールである3要素明確化.一つの話題と,その話題の要点,要点の捕捉情報が1セットであることを理解しておこう.

方法①「話題」は「(相手が答えを知りたい)問い」として設定すること

3要素明確化のルールを守る上で絶対に必要なのは,「話題」を「相手が答えを知りたがっている問い(論点)」の形式として捉える意識です.「このスライドでは聴衆のどのような問いに答えるために作るのか」を強く意識してからでないと,スライドを作成する目的意識が曖昧になり,要点を明確にすることができないのです.話題を問いとして捉える,というのは例えば,「実験結果」という見出しがくるようなスライドでは,「このスライドを見せる時に聴衆は『実験の結果はどうだったのか』を知りたがっているんだな」と考えるようにしましょう,ということです.

スライドにおける「話題」というと,「研究目的について」や「実験結果について」などの「~について」のような見出しのような形式で捉えがちですが,これではある意味何でも語れてしまい,要点が曖昧になってしまうため,このような捉え方では不十分なのです.問いとして捉える意識をしっかりと持っておきましょう.

方法②「話題の要点」として「問いに対する端的な答え」を明記すること

各スライドにおいて取り上げる話題を「相手が答えを知りたがっている問い」の形式で明確に捉えられたら,そのスライドで絶対に伝えなければならない話題の要点は自ずと決まりますよね.それは,その「問い」に対してあなたが知識や技術を駆使して見出した「端的な答え」です.例えば,「実験の結果はどうだったのか」という問いに対する端的な答えは,「実験の結果はこうだった!」ですね.

端的に明記する,ということが大事です.スライド内に書かれている内容を全て理解した上で少し考えれば分かる,というものではいけません.複数の文章が集まったような長々としたややこしい文面にせず,長くとも25文字くらいで,かつそれを聞くだけで答えとしてある程度理解と納得ができる平易な文面である必要があります.「このスライドで一番伝えたいことを一言で言うと?」と聞かれたときに,すぐに一言で話題の要点を言えるようにしておきましょう.一言で言えない場合は,話題が絞れていないか,知識や情報の整理ができていないか,のどちらかです.端的な要点が見出せるまでしっかりと考えを深めましょう.

方法③「補足情報」で「話題の要点の説得力を十分に高める」こと

各スライドにおける話題の要点である「問いに対する端的な答え」を用意出来たら,どれだけの量のどんな補足情報によって十分な説得力を備えるようになるかを考えましょう.各スライドの役割は,話題の要点を確実に聴衆に理解させ,納得させることです.納得させることに失敗すれば,それ以降のスライドの納得感も著しく損なわれてしまい,プレゼンが失敗に終わってしまいかねません.

話題の要点がそれだけでは詳細が分からないようであれば,その詳細の解説となる情報の補足が必要でしょう.抽象的過ぎる場合には具体例が必要で,納得しづらい場合には根拠となる情報が補足として必要でしょう.説得力を高めるために十分な量と質の補足情報(根拠/解説/具体例)を入手して整理しておきましょう.

ルール2:絞り込み

『話題の要点を確実に納得させる上で役に立たない情報は記載してはいけない』

2つめのルールは,各スライドに記載する内容は本当に必要なものだけに絞り込んで,それ以外は記載しないようにしましょう,というものです.プレゼンの時間も聴衆の集中力も限られているので,プレゼンを成功させる上で役に立たない内容を紹介している余裕はないのです.プレゼンの成功のためには,「各スライドで扱う話題の要点を確実に納得させる」ことが不可欠です.スライド内に書こうとする内容が,「話題の要点を確実に納得させる」上で本当に必要なのかどうかをしっかりと考えて,記載内容を取捨選択できるようになりましょう.下の図は,絞り込みのルールを図解したものです.以下ではこのルールを守る具体的な方法について解説します.

2つめのルールである絞り込み.3要素説明の納得感を高める効果の低い内容を削れば削るほどよいスライドになる.

方法①臆することなく必要最低限まで絞り込もう

これまで述べてきたように,各スライドで必須なのは,「一つの話題」「その話題の要点」「要点の捕捉情報」の3点のみです.上の図で挙げているような,別の話題の内容や無くても分かる情報,補足にならない情報,など必須の3点のいずれにも該当しない内容はなくすか,別のスライドに移すことが必要です.例えば,結果がどうだったか?という話題を扱うスライドにおいては,その結果を得るのに用いた手法の補足説明を記載してはいけません.あるいは,先行研究の問題点は何か?という話題を扱うスライドにおいては,その先行研究の意義など,問題箇所と関りのない部分の紹介は要点(「問題はこれだ」ですね)の補足情報にはならないため,載せるべきではないでしょう.スライドに記載する内容が少ないと不安に感じるかもしれませんが,役に立たない内容を記載しすぎることによって要点を納得させづらくなることにこそ不安を感じるようになりましょう

方法②表現は分かりやすく端的にしよう

記載すべき内容が定まったら,どのような表現であればより短く,かつ分かりやすくなるかを考えましょう.冗長な表現は省き,難解な表現は易しくし,曖昧な表現は改めましょう(別記事「文章を推敲するための12の方法」も参考にしてください).語順を変えるだけですっきりする場合も多いです.スライド中の文言は体言止めにせよ,というスライドルールがよく取り上げられますが,これを守るだけでは不十分です.無理に体言止めにしようとすることで意味が曖昧になったり,分かりにくくなる場合も多いです.上の図の箇条書き部分に記載している例を参考にしてください.必ずしも体言止めにしなくてもよいのです.

方法③文字数を極力減らして図解しよう

文字でうまく伝えることが難しい内容であっても,図解であれば簡単に伝わることがあるので,図解での説明は常に第一の選択肢として考えるようにしておきましょう.例えば,AとBには一対一の対応があり,CはBをサポートする役割を果たしている,という内容は文字にするとややこしくて勘違いがおきそうですが,上の図の中央付近に載せた図のように,AとBを線で結んで,CからBに向けて矢印を向けた図を用意しておくだけで,ややこしい文章を書かずにすませることもできます.

ルール3:情報の視覚化

『記載内容の重要度や関係性は視覚的に表現されていなければいけない』

3つめのルールは,記載する内容の重要度や関係性も視覚的に表現して,スライドを見るだけでそれらが分かるようにしておきましょう,というものです.個別の内容がいくらうまく伝わったとしても,それらの内容の重要度や関係性がうまく伝わらなければ,深い納得感を与えることはできません.ただし,重要度や関係性を文字で表現しようとすると,説明文が長くなってしまい,2つめのルールである「絞り込み」が十分にできません.そこで重要なのが,重要度や関係性の情報を,文字以外の手段で視覚化する方法です.下の図は,視覚化のルールを図解したものです.以下ではこのルールを守る具体的な方法について解説します.

3つめのルールである視覚化.内容のまとまりと,それらの関係性や重要度は文字以外の手段で明確にするとよい.

方法①枠や隙間でまとまりを表現しよう

複数の記載内容に何らかの共通性があるのであれば,それらがひとまとまりとなることを視覚的に表現しておきましょう.まとまりを表現する上で有効なのは,枠と隙間です.上の図の「補足情報1」と「補足情報1の細かい内容はここ」という二つを枠線で囲むことで,それらが補足情報1についての記載としてまとめられることを表現できています.この方法は簡単ですが,枠線が多すぎるとスライドが込み入って返って分かりにくくなる場合があります.

その代わりの方法として,隙間の調整による方法があります.上の図の「補足情報2」と「補足情報2の細かい内容はここ」の二つの間の隙間を狭め,それらの周囲の隙間をそれよりも広いものにすることで,これら二つが補足情報2についての記載としてまとめられることを表現できています.枠と隙間をうまく使い分けて,なるべくすっきりした見た目としつつも明確に情報のまとまりを表現できるようになりましょう.

方法②記号や図形で関係性を表そう

複数のまとまりの間の関係性を表現するには,記号や図形を用いるのが効果的です.一方から一方へ何かの流れがあるのであれば矢印を,強い関連があるのなら太い線で繋げるのが良いでしょう.イコールや不等号記号も要素の関係を簡略的に表現するのに便利です.関係性の表現は記号や図形を用いてなるべく簡略化して,各項目の内容の説明がより際立つようにするとスライド全体の見通しもよくなります.

方法③サイズや位置,色で重要度を示そう

各スライド内で紹介する情報の重要度は均一ではありません.最も重要なのは言うまでもなく「話題の要点」ですが,補足情報のなかでも重要度の序列が存在します.例えば,補足として要点の根拠をいくつか挙げる場合には,もっとも説得力を高める直接的根拠は,さほど説得力を高めない他の直接的根拠のさらに根拠,つまり間接的な根拠よりも重要度は高いですよね.他にも,上の図で緑色フォントで示したような,文中で特に伝えたい部分や,まとまりのラベル部分は,他の部分よりも重要度は高いですね.

このような重要度の違いは,聴衆の即時的な解釈に委ねるのではなく,発表者が事前にしっかりと考えた上で明確に表現しておかなくてはいけません.その上で,重要度の高い箇所ほど,「より大きく,より目立つ場所に,より目立つ色で」記載しておくようにしましょう.スライド中のほぼすべての文が全く同じフォントサイズで記載されているスライドはよく見かけますが,そのようなスライドからは,「発表者が何を特に重要だと考えているか」を伺い知ることが難しいのです.重要度をしっかりと視覚的に表現することを心がけましょう.

まとめ

『各スライドでは「話題」「話題の要点」「要点の捕捉情報」の3要素が明確に書き分けられていなければならない』,『話題の要点を確実に納得させる上で役に立たない情報は記載してはいけない』,『記載内容の重要度や関係性は視覚的に表現されていなければいけない』という3つの基本ルールの重要性と,ルールを守るための具体的な方法を紹介しました.

これらのルールを守る癖をつけるためには,スライドのテンプレートを専用のものに差し替えることから始めるとよいです.別記事「分かりやすい発表スライドを作れる研究発表用テンプレート」でテンプレートの導入方法を説明していますので,活用してください.

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