研究発表序盤戦の攻略 -タイトルスライドから目的スライドまで-

研究の技術

研究発表において最も重要かつ最も難しいのは,序盤の数枚のスライドの構成です.目的説明スライドまでの話で聞き手の興味を誘うことができなければ,その後の話は聞いてもらえず,最悪の場合休憩の時間に充てられてしまいます.この記事では,10~15分程度と発表時間が短い場合の序盤戦の攻略法についてまとめます.

攻略の概要

序盤戦の攻略の上で最も大事なのは,「何のために何をした」研究なのかという研究のアイデンティティを可能な限り短い時間ではっきり分かってもらうことです.これさえ分かってもらえれば,その研究の意義が理解されなくとも,詳細が理解されなくとも,あなたの研究は一つの研究として認識してもらえます.重要なのは,タイトルスライドと目的説明スライドです.タイトルスライドで「なんとなくこの研究はこのためにこれをした研究かな」と思ってもらい,目的スライドで「確かにこの研究はこのためにこれをした研究だな!」と確信してもらうことを目指しましょう.その間に挟む2~4枚のスライドは,その確信度を高めるのに最低限必要な補足説明です.確信度を高めるのに寄与しない話はしません.

タイトルスライドの攻略

タイトルスライドでは,タイトルの文言を少しかみ砕いて分かりやすい言葉に置きなおして説明するのが良い方法です.何を明らかにしようとする研究なのか,あるいは何を実現しようとする研究なのか,を平易な言葉で伝えましょう.例えば,「この研究は,~のために~を明らかにしようとするものです.」もしくは「この研究は,~で~が実現可能か確かめたものです.」のような説明をするか,もしくは,結論に自信があるのであれば,「この研究では,~を明らかにしましたので報告します.」といった紹介をするのがよいでしょう.詳細については中盤戦のスライドで解説をすればよいので,この段階では細かく長々と説明するのでなく,なんとなくこんな研究かな,というイメージを持ってもらえることが重要です.ただし,上記の説明はタイトル文字の内容とある程度対応していることが望ましいです.

文語調のややこしいタイトルをそのまま読み上げて,「~~~と題しまして~研の~から発表させていただきます」と述べる形式が広まっていますが,単なるタイトルの読み上げは時間の無駄です.聞き手の大多数がすでに承知していることの説明に貴重な10秒を費やしてしまうのは限られた発表時間を考えるともったいないです.「~研の~です」くらいで簡単に自己紹介を済ませて早く本題(すなわち,「何のために何をしたか」)に入りましょう.

また,タイトルスライドは発表開始前に聴衆に見せておくことができるので,そこに画像を載せたり動画を流しておくことは興味を引く上で大変有効です.タイトルスライドには研究題目と名前,所属しか書いてはいけない,という決まりはありません.上記の説明の理解の助けになる図や写真が用意できれば,それを載せておきましょう.ただし,載せっぱなしで説明しないのは聞き手の予測を裏切ってしまいよくないので,載せたら必ず言及しましょう.

1枚目の攻略: タイトルで生じた疑問に答える

一枚目に書くべき内容にはいくつかの選択肢がありますが,基本はタイトルスライドの説明をしたときに最も強く持たれるであろう疑問に対する答えの説明をする,ということです.タイトルで最重要論点(「何のために何をしたか」)や結論を紹介していないのであれば,まずそれらが何か?という疑問が生じるので,その紹介をしましょう.もし,タイトルに難解な専門用語があるのであれば,それは何だ?という疑問を持たれるので,その解説をしましょう.なぜそんなことをするんだ?と思われそうなら必要性の説明を,何が難しいんだ?と思われそうなら難しさの説明をするのがよいでしょう.

2枚目の攻略:理想と現状のギャップの指摘

2枚目は大抵の場合,タイトルスライドと1枚目で説明してきた内容に対して,今何が不十分なのかを明確に指摘するのが望ましいです.いわゆる「先行研究スライド」ですが,大事なのは,「これまで何がやられてきたか」ではなく,「理想としてあるべき状態に対して,現状は何が不十分なのか」を理解してもらうために先行研究を紹介するということです.研究発表時間は大概短いものなので,分野の歴史を説明している時間はありません.「~であるべきなのに,これまでの取り組みでは~が不十分でした」あるいは「~であれば望ましいのですが,現状~ができていません」などのように簡潔に指摘した上で,その説得力を高めるのに必要最低限なだけの先行研究例や状況証拠の紹介をしましょう.

3枚目の攻略:問題の明確化

2枚目で指摘した点が不十分なままであったのは,何か背後に問題があったためかもしれません.その場合,その根本の問題を明らかにすることがその解決の第一歩です.このスライドでは,何が根本的に解決されるべき問題なのかを明確に示しましょう.この問題について掘り下げた解説や考察などは中盤戦に後回しです.「2枚目で示された不十分さの根本の問題は確かにそこにありそうだな」と最低限思ってもらえれば十分です.

4枚目の攻略:解決のアイデアの紹介

このスライドでは,3枚目で指摘した不十分な点を解決するためのアイデアを紹介するのがよいでしょう.あまり長々とアイデアの詳細を解説するのは中盤戦に後回しです.ここでは,「詳細はわからないけど確かにそのアイデアでうまく行きそうだな」と思ってもらえるようにアイデアを説明することが大事です.アイデアを紹介する端的な表現と,その説得力を高めるための最低限の説明に留めましょう.

目的スライドの攻略:結論を下すべき最重要論点を示す

ようやくたどり着いた目的スライドでは,これまでの話しをまとめます.書くべき目的は単純かつ自動的に決まります.一つ目の目的は,紹介したアイデアで問題が解決できるかを確かめることです.そしてもう一つは,問題が解決されたことで,どのくらい不十分さが解消されたかを確かめることです.これらの内容が短く記述可能なら一文にまとめればよいですし,長くなるようなら2つに分けて説明すればよいでしょう.

単に,~を開発します,とか,~を調査します,というのは目的として不十分です.それらはあくまで何かの論点(疑問)に回答を出すための手段にしかすぎないからです.研究の目的はあくまである論点に対する回答を得ることです.従って,「~を実現する上で~の採用がどの程度有効かを確かめる」あるいは「~を調査して~がどうなっているかを明らかにする」のような疑問に答える形の目的にしなければなりません.

目的スライドで提示した論点が,この研究を通じて回答が目指されるべき最重要論点となります.この論点に対してどのくらい説得力のある回答を導き出せたかが研究の評価対象になります.別記事で書くべき内容になりますが,発表の終盤戦ではこの最重要論点に対して結論を下します.つまり,結論のスライドでは,この論点に対して得られた答えを結論として書きます.「~が開発できました」あるいは「~を調査しました」というのは単なる作業状況の報告であって,結論にはならないのです.「~を採用することで,~が解決され,性能が~程度向上しました」あるいは「~を調査することで~が判明し,~という新たな問題が浮かび上がってきました」などのように,最重要論点に対する回答が結論となりえます.

補足資料

Slideshareに補足資料を挙げました.実際の作成例です.

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