論証力を身につけよう

研究技術解説

前提から論理的に結論を下せる力は,研究を進める上で特に重要です.根拠や前提に支持された発展的な結論を導出し,また逆に結論の説得力を高めるための根拠や前提を整理することが求められます.この記事では,基本となる3つの論証と,4つの導出パターンを紹介します.

補足資料

このスライド資料も参考にしてください.

そもそも論証とは?

論証とは,根拠や前提から発展的な結論を導出することであり,「根拠あるいは前提」,「導出」,「結論」の3つの構成要素が1組になったものです.これらの構成要素が一つでも欠けると論証として成り立ちません.根拠がなければ,「説得力がないただの勝手な宣言」になります.導出がなければ,「何でそうなるのかよくわからない話」になります.結論がなければ,発展がない,「色々言ってたけど結局何が大事かわからない話」になります.

論証の基本構造はたった3種類!

複雑な論証であっても,基本的には根拠の組み合わせ方が異なる3つのパターンの組み合わせです.

  1. 単純論証:根拠1つで結論1つを下す(AだからB)
  2. 結合論証:複数根拠すべての成立で結論1つを下す(AかつBだからC)
  3. 合流論証:複数根拠の一部の成立で結論1つを下す(AだからC.あるいはBだからC)

論証を行う際には,どの論証パターンに当てはまるのかを把握しておくことが重要です.なぜなら,それぞれのパターンの強みと弱みは違うからです.単純論証は論理を相手に伝えやすいですが,結論を支える唯一の根拠が崩れれば論証が成り立ちません.したがって,根拠の選択には慎重になるべきです.結合論証は発展的な結論を導きやすいですが,一つでも根拠が欠ければ論証が成り立ちません.また,飛躍した結論を導きやすいため,根拠に抜けがないかを慎重に確認すべきです.合流論証は,強い論証です.一部の根拠が崩れても,残りの根拠で結論を支えることができます.ただし,根拠を揃えるのが大変です.

結論は,次の結論の根拠や前提に使える

十分な根拠によって導出された結論は,次の結論を導き出すための一つの根拠や前提として使うことができます.論理的な文章では,このようにして基本的な論証を複数組み合わせ,結論を次々に発展させ,最終的に最も導出が難しい結論の導出を目指します.

論証は図として捉える

複雑な論証を人に説明したり,人から聞いたりする場合には,図を書いて整理する方法が効果的です.論証を図示したものは,論証図と呼ばれます.論証図の書き方は様々あるようですが,ここでは,「根拠は結論の下に並べて書く」「結合論証なら,根拠の間は&で繋ぎ,合流論証なら|で繋ぐ」という書き方を薦めます.根拠が結論を支えている,という直観的なイメージと近く,また文章や発表資料で書くべき順序とも整合するからです(別記事「パラグラフライティングの作法」参照).また,「&」は繋げられた二つの根拠が密接に結びついた「且つ」のイメージが強く,「|」は繋げられた二つの根拠がある程度分離された「もしくは」のイメージに近いと思います.このイメージが持てないようなら,自分なりの記法を考えてもよいかと思います.図として捉えることで,論証の中の穴や弱点を見極めやすくなる(別記事「ピラミッド構造で論理の弱点を見極める」参照)ので,文章を書いたり読んだり,話をしたり聞いたりするたびに,論証図を書き出したり頭に描いたりする練習をするとよいでしょう.

妥当でない導出をしないように

並べた根拠がすべて正しくても,導出した結論が正しいとは限りません.論理的に誤りのない「妥当」な論証にするためには,妥当な導出をしなければいけません.つまり,導出には妥当なパターンと,そうでないパターンがあるということです.以下に挙げる4つの妥当な導出の頻出パターンの違いと特徴を把握して,使いこなせるようになりましょう.

  1. 演繹:論理的に妥当な導出の連続による導出
  2. 帰納:具体事例から一般原則を推測する導出
  3. 対偶:前提と結論の両方を否定して関係性を逆転させる導出
  4. 三段論法:大概念と小概念をそれぞれ含む二つの前提から小概念と大概念の関係性を導出

演繹は,根拠や前提が真であれば結論も真だと断言できる導出であり,安心して使える強力な導出です.「(AはBだ & BはCだ & CはDだ)したがって(AはDだ)」のように書けるものです.確実に真である根拠や前提には,例えば,包含,定義,言換があります.(水は液体だ & 液体は流動的だ &  流動的なものは容器に合わせて形を変えられる)という3つは定義であるため,確実に真です.したがって,これらの3つの根拠を元に演繹で導出可能な(水は容器に合わせて形を変えられる)は真です.

帰納は,結論の表現に気を付けなければいけない導出です.「(Aのうち1つはCだ & Aの別の1つもCだ & Aの別の1つもCだ)したがって(全てのAはCだろう)」のように書けるものです.前提や根拠が多いほど,「結論が真であることがより確からしい」といえますが,「結論は真である」と断言はできません.例えば,(犬のタロウはかわいい & 犬のポチはかわいい & 犬のハチはかわいい)という根拠から(すべての犬はかわいい)という結論を断定するのは妥当ではありません.もし一例でもかわいいとは言えない犬が見つかれば,結論が偽になるからです.妥当な論証にするには,(すべての犬がかわいいことが伺える)のような婉曲表現に留める必要があります.

対偶は,単純ながら使い勝手のよい明快な導出です.「(AはBだ)したがって(BでないものはAでない)」と書けるものであり,前提が真なら結論も真,前提が偽なら結論も偽になります.ただし,単純だからといって簡単に使いこなせるわけではないので,注意が必要です.例えば,(タロウは犬だ)の対偶を(犬でないなら,タロウではない)にしてしまうと,おかしなことになります.犬でない,例えば人や魚のタロウもありえるので,前提が真であっても結論は偽になってしまいます.この例で犯してしまった間違いは,対偶を取るときに,「タロウ」を一般化してしまったことです.前提におけるタロウは,例えばあくまでも「うちで飼っているタロウ」であって,世間一般のタロウではありません.なので,前提は,(うちで飼っているタロウは犬だ)にしておく必要があります.この対偶は,(犬でないならうちで飼っているタロウではない)になるので,おかしさが消えました.このように,対偶を取るときには前提の指している対象をきっちりと定義しておく必要があります.

算段論法は,演繹の一つの形式ですが,簡単そうで実が深い導出です.例えば「(全てのBはCだ & AはBの一つだ)したがって(AはCだ)」のように書けるものです.根拠とする二つには,ある共通する概念の中で大きな部分について言える大概念Cと,小さな部分について言える小概念Aがそれぞれ含まれているのが特徴です.例えば,「(すべての生き物はいつか死ぬ & 犬は生き物の一つだ)したがって(犬はいつか死ぬ)」というのは算段論法の一つです.一見何気なく導出できそうですが,このような形式で書ける256通りの算段論法のうち,妥当なのは24通りだけのようです(参考 三段論法).例えば,「(全てのギリシア人は人間である)& (全ての人間は死ぬ存在である)」から三段論法で妥当に導出できる結論は,(ある死ぬ存在はギリシア人である)になるようです.なかなか難しいですね….

まとめ

研究を進めるためには,根拠や前提から発展的な結論を妥当に導出できるようになる必要があります.頭の中で論証図を思い浮かべて話を整理できるようになりましょう.妥当な論証のパターンを知って,使いこなせるようになりましょう.さもなければ,間違った結論を世に出してしまったり,あるいは自分の気づいていなかった論文の論理の破綻を査読者に指摘されて,研究の計画を一から練り直し,という羽目に陥ります.

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