認知発達ロボティクス

工学系記事

興味と動機

子供は、身近でありながらも難しい研究対象であり、分かっていないことが多く残されています。なぜ大人は子供に大きく感情を揺さぶられ、つい働きかけてしまうのか。また、どのような仕組みで子供は大人の認知・社会的行動機能を身につけていけるのか。さらには、それらの関係、すなわち、大人からの働きかけは、どのように子供の発達に関わっているのか。遺伝要因、身体要因、社会要因など、発達に絡む要因があまりにも多く、またそれらの要因同士もダイナミックに影響しあっています。このような対象にどのように取り組めばよいでしょうか。

背景

対象について理解を深めるための常套手段は、影響を見たいもの以外の要因の条件を対象間で揃えることと、要因を恣意的に操作してみることです。発達心理学や脳神経科学はこのための技術を開発し、理解を進め、多くの発達の仮説を整理してきました。しかしながら、相手が様々な環境で育てられている子供である以上、要因の条件を揃えきることも、また倫理上過度な操作を加えることも困難であり、仮説の妥当性について厳密な議論はできないでいました。そこで、構成的な手法を含めた、学際的、統合的なアプローチが有効だと考えられます(認知発達ロボティクス)。

手法

構成的手法とは、研究対象のシステムを人工的に作って動かしてみることにより、注目する現象がどのような条件で起こりうるのかを理解しようとする手法です [2]。人工システムに対しては厳密な初期条件や環境条件の統制が可能であり、また実際には倫理上許されないような条件の設定も可能です。例えば、計算機シミュレーション上で学習機能を持つ子供のプログラムを動かし、それに親が付き添った場合と、付き添わなかった場合に学習の過程や結果がどのように違うのか、といったことを試すことができます。子供の認知機能や学習機能を任意につけたり外したりすることも、また、親の付き添い方も様々に変更できます。実際に起きている発達的現象が生じる条件を網羅的に探ることのできる研究対象を作り出せるのです。

しかし、これだけでは不十分です。数式で記述されたシミュレーションの世界で起きた発達的現象が、果たして実世界でも起きうるのかを確認する必要があります。子供ロボットは、このために身体構造や認知、行動、学習機能を操作可能なプラットフォームに成りえます。実世界で動かしたロボットもシミュレーションと同様に発達していくことができれば、計算機シミュレーションで行った検討の妥当性も高まります。シミュレーションと比して時間を要しますが、実世界での子供ロボットの発達実験は、実世界とシミュレーション世界の子供の発達の差異を埋めていくために必要です。

言うまでもなく、上記の構成的な取り組みはそれだけで完結するものではありません。構成的手法で現実の理解に迫ろうとする上では、構成したものが、現実を適切に抽象したものであることが前提となります。シミュレーション上で動かす子供や大人のモデルに前提として組み込まれた構成要素は、過去の現実の観測で存在が知られているものである必要があります。もしくは、それ以外に仮説的に組み込まれ、その重要性が示唆された構成要素は今後の観測で存在が確かめられる必要があります。このため、発達心理学や、脳神経科学などの観測技術も必要不可欠です。

まとめ

上記のように、それぞれの取り組みには長所も短所もあります。それらを的確に見極めることによって、統合的アプローチの効果が発揮されます。この分野の研究においては、複数の分野の研究者が互いの分野の特徴をよく理解した上で連携していくことが不可欠です。

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