研究成果を挙げるための6つの基礎スキルを実践的に身につける方法

研究技術解説

研究室に配属された学生さんが最低限身につけるべきスキルセットは何でしょうか.高度な専門スキルを身につけることも大切ですが,それらの習得や活用の土台となる基礎的なスキルの習得も不可欠です.この記事では,6つの基礎スキルと,それらを実践的に身につける方法を紹介します.紹介するスキルは,「論証」「要約」「意見」「構成」「管理」「確認」です.

➀論証スキル

1つ目は「論証スキル」です.これは,ある答えを導きだす論理的道筋を,飛躍なく,矛盾なく,過不足なく見抜き,また論じる能力です.

なぜこのスキルが必要?

研究の議論がうまく進まずなかなか成果が出ないからです.例えば,以下のような事態に陥ります.

×スキル不足の例:無駄に終わる実験結果報告
学生さん「実験の結果,データには〇〇という特徴がみられました.この原因は□□です.だから今から…」
教員「ちょっとまって,本当にそう言えるの?原因は××という可能性もあるんじゃない?信憑性が乏しいので,もっとよく考え直してまた次回慎重な報告をし直すように…」

一方で,論証スキルがつけば,研究の議論がうまく進んで成果がでやすくなります.例えば,以下のような状況に改善されます.

◎スキルを発揮した例:発展につながる実験結果報告
学生さん「実験の結果,〇〇という特徴のデータが得られました.原因として考えられるのは,□□と××の2つです.ただし,××が原因である可能性は以前行った実験の結果否定されています.したがって,原因としては現状□□が濃厚です.ただし,他に見逃している原因があるかもしれないので,どのような実験を行えば信憑性が高まるかを検討しているところです.」
教員「もう一歩のところまで来ているね.原因が□□かそうでないか確認するには,▼▼の方法が使えると思うよ.そこまでできたら論文誌に出せそうですね.」

「Why?」と「So what?」を常に問う癖をつけよう

論証スキルを実践的に身につけるには,日々の事柄に対して「なぜ?」というその根本や根拠を探る問いかけと,「だから?」という発展を探る問いかけを繰り返すことが有効です.例えば,ある特徴を持つデータを見たときには,「なぜこのような特徴なのだろうか」や「データの特徴はこうだった.だとしたら,次に何が言えそうか」ということを考えてみましょう.ほかの人の発表を聞いた時にも,「なぜ?」と「だから?」を常に頭に浮かべて聞くように心がけましょう.別記事「論証力を身につけよう」や「ピラミッド構造で論理の弱点を見極める」も参考にしてください.「ロジカルシンキング」「なぜなぜ分析」「論理思考」「論証」などのキーワードでWeb検索するとたくさん参考情報が見つかります.

➁要約スキル

2つ目は「要約スキル」です.これは,膨大な情報の中から論理的骨格や要点を的確に抜き出してシンプルなものにする能力です.

なぜこのスキルが必要か?

人に説明がうまく伝わらず,また人の説明もうまく理解できないからです.例えば,以下のような事態に陥ります.

×スキル不足の例:伝わらない進捗報告
学生さん「色々やっていて,どこから報告すべきか悩ましいのですが…まずは実験をしてみたところ,データが割ととれました.いまエクセルにまとめています.色々とややこしいのですが,グラフにしているところです.一部のグラフは見ているのですが,他はまだ見ていません.」
教員「結局どこまで達成できた?結果はよかったの?要点が掴めなくてなんともコメントしづらいです…」

×スキル不足の例:なかなか進まない論文読解
学生さん「この論文ややこしいな…あれ,この用語なんだっけ.ああ,前の段落に説明があったのか…あれ,その前の段落では何が説明されていたっけ?ん,何も頭に入ってない…論文が読み終わらない…」

一方で,要約スキルがつけば,説明がうまく伝わるようになります.また,理解力も高まります.例えば,以下のような状況に改善されます.

◎スキルを発揮した例:うまく伝わる進捗報告
学生さん「データ集めは計画通りに完了しました.データの一部を簡易的に可視化して目視しただけですが,仮説はどうやら正しいような印象です.可視化したグラフの一覧をお見せしましょうか.それとも今後の本格的な分析の計画についてお話しましょうか.」
教員「なるほど,順調に進んでいるようだし,嬉しい結果になっていそうだね.まずはグラフの一覧を見せてほしいな.グラフをみて,データにおかしなところがないかをまずは確認してから次のステップに進もう.」

◎スキルを発揮した例:さくさく進む論文読解
学生さん「この論文ややこしいけど,結局この段落で大事なのはこの文だけだな.他は読まなくてもいいや.で,これはきっと最初の段落で大事だったあの疑問の答えに相当するところだな.結局,この論文で大事なところはこの疑問にこのような答えを出したことだな.それだけ覚えておけば他は忘れてもいいや.よし終わった!」

「相手に響く一言まとめ」を常に考えよう.そして相手に響くかを確認しよう.

要約スキルを実践的に身につけるには,何かを書いたり伝えたりする場合に,「もっと相手に響く一言にまとめられないか」を常に考えるようにすることが大切です.また,他の人の発表や論文を読む時にも,「今ここで結局何が語られているのか」ということを常に考え続けるようにしましょう.同じくらい大事なことは,そのようにまとめた要約を人に伝え,それがちゃんと相手に響いたかをしっかり確認することです.うまく伝わらなかったなら,要約に失敗しています.相手に響くまで,要約をし直してみましょう.別記事「相手に響く結論を定めるための3つの方法」や「キラー・リーディングを身につける」も参考にしてください.「要約」「縮約」「パラグラフリーディング」「キラーリーディング」などのキーワードでWeb検索してみましょう.

➂意見スキル

3つめは「意見スキル」です.これは,目の前の事実や議論をそのまま受け入れるだけでなく,その場の論点に沿った自分なりの意見をまとめ,表明する能力です.

なぜこのスキルが必要?

発展を生み出せないからです.例えば,以下のような事態に陥ります.

×スキル不足の例:意見を出さなかったことによる気づきの見逃し
終始無言の学生さんの頭の中 (同期の〇〇君の研究発表だ…あれ,自分が前にやったときと全く違う結果がでてる…どこかにおかしいところがありそうだけど,意見がまとまらない…)
教員「皆さん意見は特にないですか?では,〇〇君,研究をそのまま続けてください.」

一方で,意見する力がつけば,気づきを共有して重要な発展に繋がる議論のきっかけを作ることができます.例えば,以下のような状況に改善されます.

◎スキルを発揮した例:気づきの共有による重要な議論の開始
学生さん「〇〇君,その話には少しひっかかっています.実は,前に僕が実験をした時には全く違う結果になったのです.なぜかはわかりませんが.」
教員「もしそうだとすれば,これまで知られていなかった,結果に影響する重大な要素を見逃している可能性があるね!〇〇君,まずは彼の実験設定を詳しく聞いて,違う点をリストアップしてみてください.そのリストの中に大事な発見が埋もれているかもしれません.」

とにかく意見を表明して,反応を確かめよう

意見スキルを身につけるには,とにかく自分の意見を表明してみることが大事です.ただし,意見の出しっぱなしは効果がありません.自分の表明した意見に対する周囲の反応を確かめることが大切です.自分の意見の持ち方や伝え方が上手いものであれば,周囲の議論は活性化するでしょう.もし反対に議論が活性化せず,珍紛漢紛な反応をされたら,意見の持ち方や伝え方に直すべき点がある可能性に気づけます.その場合は,後でなぜそのような反応をしたかを皆に聞けばよいのです.失敗を恐れて意見を出し惜しみすると,学ぶ機会を逃すことになります.「論証する力」や「要約する力」をつけることも大切です.これらの力は,あなたの意見を場に即した論理的なものにしてくれるでしょう.

➃構成スキル

4つめは「構成スキル」です.これは,多くの要素の意味的類似性や重要性を考慮して全体を構造化し,その構造を明確に表現する能力です.

なぜこのスキルが必要?

せっかくのよい考えや成果を理解してもらうのに手間と時間がかかるからです.例えば,以下の事態に陥ります.

×スキル不足の例:要点が伝わらず,説明し直す羽目になる
学生さん「…と,ここまで細かいややこしいことをたくさんスライドで説明してきましたが,実はこのスライドの中で一番言いたいのは,目立たなくて読みにくいのですがここの隅に小さく書いているこの〇〇です.で,話は戻りますが,ここの内容は3つ前のスライドで軽く説明したあの▽▽と実は同じです.したがって…」
教員「ちょっとまって!〇〇も▽▽も目立たなくて大事な内容だとは思えなかったから,他の部分を見ていて聞き逃したし,今更3つ前のスライドの内容を思い出せないよ!スライドを戻して説明し直してください…」

一方で,構成スキルがつけば,ややこしい話もすっきりと伝えることができます.例えば,以下のような状況に改善されます.

◎スキルを発揮した例:説明がさくさく進む
学生さん「ここで一番言いたいのは,スライド上部に大きく書いているように,〇〇ということです.厳密にいえば,その下に細かく書いているようなことになるのですが,それほど大事ではないのでここではその詳細説明は省きます.それよりも大切なのは,この〇〇は▽▽とみなすことができるということです.〇〇と▽▽のどこがどう対応するかは,対応する箇所ごとに色分けしてスライドの下の図で示しています.」
教員「なるほど!そこが今回の発表の要点だね.確かに対応していることがよくわかりました.それでそれで?」

構成のパターンを使って大枠から定める癖をつけよう

構成スキルを身につけるには,大枠の構成を決めるテンプレートとして使える様々なパターンを知り,そのテンプレートを使って大枠から決めていく癖をつけることが有効です.例えば,文章パターンであるパラグライティング,論文パターンであるIMRADや砂時計,また,発表パターンであるSPINやFABE,スライドデザインのパターン,考えを整理するパターンであるリボン思考や空・雨・傘などがあります.このようなパターンで全体の構成の大枠を定めて,そこから徐々に各部の詳細を定めていくようにしましょう.

絵や漫画も,大枠を定めてから細かいところを完成させていきますよね.そうしないと完成時のバランスが崩れますし,細かいところを何度も手を入れなおす羽目になるからです.別記事「パラグラフライティングの作法」「発表の流れのパターン4つ」も参考にしてください.「論文の構成」「情報の構造化」「分かりやすい図解」「スライドデザイン」「デッサンの方法」「漫画の描き方」などをキーワードとしてWeb検索もしてみましょう.Pinterestでプレゼン資料やポスターというキーワードで検索すると,よいパターンで構成されたデザインをたくさん見ることができます.

➄管理スキル

5つめは「管理スキル」です.これは,時間・情報・物品という限られた資源を効果的に使いこなして生産性を高める能力です.

なぜこのスキルが必要?

時間を無駄にし,情報を見逃し,物品の価値を発揮させられず,生み出せたはずの成果を生み出せずに終わってしまうからです.例えば,以下の事態に陥ります.

×スキルが足りない例:無駄時間が多い
学生さん「次の予定まで30分か…この時間だと実験もできないし暇だなあ.そういえばこの間読んだ本にいいことが書いてあったから,まとめとこう.あれ,思い出せないな…仕方ないから今の間にあの作業をやっておこう!まず,あれが必要だな.ん?ここに置いたはずがないな…ここにもないし,あそこにもないし…どこに置いたっけ.うーん,あ,気づいたら1時間たってた…」

×スキル不足の例:不適切な時間配分で伝える機会を失う
学生さん「かくかくしかじか(長時間)で,〇〇のような実験をしました.その結果得られた結果が大変面白いので是非話したいのですが…」
教員「残念ながら,もう発表の持ち時間は終わってしまったね.次の学生さんに交代してください.次は大事なところに時間を割くように…」

一方で,管理スキルがつけば,無駄時間を省き,その分余裕をもって成果に繋げることができるようになります.例えば,以下のような状況に改善されます.

◎スキルを発揮した例:隙間時間を有効活用
学生さん「次の予定まで30分か…ちょうどいい隙間時間だから,明日のやる予定の発表資料作りが楽になるように,構成案をスマホにメモしておこう.そうだ,そういえばあの本のあの内容が発表の導入に使えそうだな.アプリで確認して構成案にも書き加えておこう.よし,終わったところでちょうど次の予定の時間だ.」

◎スキルを発揮した例:大事なことを伝える機会を得られる
学生さん「得られた結果が大変面白かったので,今回の報告の主眼は結果の報告です.手法の説明はそれほど重要でないので1~2分の簡単な紹介にとどめます.必要であれば,質問に応じて後で詳細を補足します.」
教員「それはいいね.ではじっくりと結果を聞かせてください.」

作業ごとの所要時間を常に意識しよう.支援ツールを積極的に活用して情報や物品を整理整頓しよう

どの作業に一体どれだけの時間がかかったのかを意識するようにしましょう.時計を軽く見る程度でよいので,「現在時刻」だけでなく,「作業を始めてからの経過時間」を意識するようことが大切です.そうすれば段々と,「あの資料をスライドにするには30分かかるが,メモに大まかな概要を書き出すのは5分でできる」「論文の1段落分を完成させるには3時間かかるが,ざっと書くだけなら10分でできる」「このスライドの内容なら40秒で話し終われる」のような時間感覚が身につきます.この感覚の精度が高まれば,限られた時間をどの作業に割り当てるかを効率的に決めていくことができるようになります.「時間感覚 仕事」などのキーワードでWeb検索してみましょう.

また,情報の管理のための支援ツールも活用できるようになりましょう.ちょっとしたメモや情報の保存や検索には,Evernoteのようなノートアプリが便利です.論文などのPDF資料の管理にはPaperpileやMendelayのような文献管理アプリが便利です.特別なアプリを使うだけでなく,PCやクラウドストレージのフォルダ構造を整理し,どこのフォルダにどのファイルが入っているかが瞬時にわかるようにしておくことも非常に有効です.そうすれば,必要な時にすぐにファイルにアクセスして利用することができます.物品の整理整頓も同じように大切です.同じジャンルのものは,それらをまとめてここに入れる,というルールを決めておきましょう.異なるジャンルのものが周囲に雑多に転がっていると,探す手間が増えますし,集中力も削がれます.「デスクの整理」「机 片付け」などでWeb検索してみましょう.綺麗な店舗の陳列棚も収納方法のよい参考になります.

➅確認スキル

6つめは「確認スキル」です.これは,自分の認識や記憶,また発言や記載内容に間違いがないかを素早く正確に,また何度も粘り強く確認できる能力です.

なぜこのスキルが必要?

大きな無駄や取り返しのつかない失敗を招く危険性が高まるからです.例えば,次のような事態に陥ります.

×スキルが足りない例:効果的な添削を受けられない
学生さん「先生!原稿を書いたので内容のコメントと添削をもらえませんか!実は1時間後に必ず提出しろと急遽言われたものなのですが,内容が良くないとまずいらしいのです…大急ぎですみませんが,困っています!すみません!」
教員「それは急だけど,なんとか時間を作ってできるだけ内容が良くなるように修正をしてみます!…えっと,ざっと読んだけど誤字脱字や曖昧な表現が多すぎて,そもそも書いていることが理解できないので,コメントも添削もできません…日本語表記のミスを直してからもう一度持ってきてください…あと30分しかないけどね…」

×スキルが足りない例:確認不足でトラブル発生
学生さん(先生に『〇〇をやっておいて』って言われたな.〇〇って,まあたぶん××のことだろうな.××をやると壊れてしまうって聞いた気がするけど,先生がそう言うなら構わないんだろうな.)「先生,早速××をやっておきました.」
教員「え!!なんで××なんてやったの!?ああ,壊れてる…〇〇は▲▲のことだよ…涙 説明が曖昧だったからこっちにも非があるけど…(理解に間違いがないかを確認に来てくれてたら防げたのに…).」

一方で,確認スキルがつけば,無駄の発生を最低限に抑え,またトラブルにつながるそもそもの原因が相手にある場合でも,そのトラブルの発生を未然に防ぐことができます.例えば,以下のような状況に改善されます.

◎スキルを発揮した例:添削を受けてよりよい成果物にする
学生さん「先生!原稿を書いたのでコメントと添削をもらえませんか!実は1時間後に必ず提出しろと急遽言われたものなのですが,内容が良くないとまずいらしいのです…大急ぎですみませんが,困っています!すみません!」
教員「それは急だけど,なんとか時間を作ってできるだけ内容が良くなるように修正をしてみます!…うん,書いていることは何とか理解できたので,それがよりよく伝わるように添削をしておいたよ.もし時間があれば,ここにこの内容を追加すればさらに良くなると思います!」

◎スキルを発揮した例:トラブルを未然に防ぐ
学生さん(先生に『〇〇をやっておいて』って言われたな.〇〇って,まあたぶん××のことだろうけど,ちょっと怪しいから念のため確認しておこうかな.)「先生,〇〇って××のことだと思うんですけど,それで間違いないですか.」
教員「あ,違う違う!〇〇は,▲▲のことだよ.もし××をやってしまっていたら壊れてしまったかもしれないから,確認してくれてありがとう.伝え方が不十分だったけど,確認してくれて助かりました.」

「曖昧さ」を恐れて気付けるようになろう.理解を加えて聞き返そう

自分の表現に曖昧さとミスがあることを恐れましょう.また,相手の表現にも曖昧さとミスがあることを疑いましょう.自分の曖昧さとミスに気づくには,何度も違うやり方で見直すことが有効です.文章なら声に出して読んでみたり,違う大きさのディスプレイや印刷物で読んでみると気づきやすくなります.4~5回そのように読み直して初めて気が付くこともあるので,何度も粘り強く見返すことが大切です.

また,他の人に添削をしてもらい,曖昧な箇所やミスを指摘してもらって「自分がよくやる曖昧表現リスト」を増やしていきましょう.そうすれば,次にそれを自分で書いてしまったときに「こう書くと曖昧で危険だったな」と気が付けるようになります.「曖昧表現リスト」が頭の中にできてくれば,相手の発言の曖昧な表現にもよく気が付くことができるようになります.そうなれば,その曖昧さを正すような質問を相手に投げかけることができます.

もう一つ有効な方法は,自分の理解を加えて相手の発言を言い直すことです.相手が「〇〇をやっておいて」といったときに「〇〇は××のことだ」と理解したのであれば,「わかりました.××をやっておきます.」といえばよいのです.そうすれば,もし理解が間違っていた場合には,即座に相手に正してもらうことができます.「曖昧な文章」「曖昧な言葉」などのキーワードでWeb検索をすると参考になる情報が見つかります.

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