スライド資料の論理性チェックリスト

研究技術解説

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研究発表をスライド形式で行う場合、話の論理展開を入念に計画し、それをスライド構成に反映させる努力が特に重要です。この記事では、スライド作成ツールを立ち上げる前、個別スライドを作るとき、スライド枚数が出揃ってきた後、の3段階でチェックすべき項目をまとめます。

スライドツールを立ち上げる前

発表資料を作ろう!と決めたときにまずやるべきことは、Powerpointなどのスライド作成ツールを開いて文字を書いていきたい気持ちをぐっとこらえることです。まずは、発表を終えたときに達成したい目標と、その達成のための作戦を練りましょう。ノートやメモアプリが役立ちます。以下の項目について考えを整理するとよいです。

  1. その発表で自分が用意できる最大の落ち(最終結論)は何か?つまり、絶対に聞き逃して欲しくない、絶対に覚えて帰って欲しいメッセージは何か?
  2. その落ちを伝えたときに、聞き手にどのように感じてもらいたいか?驚きか?安心感か?新たな知識を得た喜びか?手助けしたい気持ちか?優れた人物だという称賛か?
  3. その落ちを端的に伝えて聞き手に響かせるための優れた表現はどのようなものか?例えば驚きを感じさせたいのなら、どのような文章にすればよいか?
  4. その落ちをその表現で伝えるだけでは何が足りないのか?納得感が足りないのか?疑念を持たれてしまうのか?詳細が意味不明なのか?意義が理解し難いのか?

これらの点について時間をかけて考えを巡らせ、整理しておくことは非常に重要です。なぜなら、その結果によってスライド資料の効果的な構成の仕方は大きく異なるからです。例えば、項目1で決めた落ちは、それがスライド全体の話の中で最も目立つようにし、その他の話はすべてその落ちを輝かせるために構成する必要があります。大抵の場合、落ちは終盤の結論スライドに記載しますが、発表の冒頭で言ってしまう方が効果的な場合もあります。また、項目2の結果によって、項目3と4の決め方が変わり、それによってスライド全体の中でどんな内容に時間と枚数を割くべきかが決まります。最終的な落ちを聞いただけで意義は明白なのに、意義の説明に時間を割くのはもったいないですよね。それよりも、落ちを聞いて詳細がよくわからないということなら、詳細の説明に時間を割くべきなのは明白でしょう。

個別スライドを作るとき

スライド全体での目標と作戦がまとまったら、それに沿って個別のスライドを作っていきましょう。基本的には、よく言われるような構成に従えばよいです。つまり、背景,問題、アイデア、目的、手法、結果、考察、結論、展望の流れで個別にスライドを用意するという方針で問題ありません(別記事「研究発表の各セクションの役割」及び「研究発表序盤戦の攻略」「研究発表中盤戦の攻略」も参考にしてください)。ただし、実際にそれらのスライドに何をどのように記載するかを決めることは簡単ではありません。実際、そのような構成になっているにも関わらずうまくいっていない発表というのはよく見られます。そうならないためには、以下の項目について十分に検討するのがよいでしょう。

  1. そのスライドは、落ちに対してどんな役割を果たすために作るのか?落ちの疑念を払拭するための根拠の提示か?落ちをよりわかりやすくするためか?落ちの意義を明らかにするためか?
  2. そのスライドで答えようとする疑問(論点)は何か?言い換えると、そのスライドによって聞き手に何を理解させようとするのか?
  3. そのスライドの論点に対する明確な答え(キーメッセージ)は何か?それは本当に答えになっているか?
  4. そのスライドの答えの納得感や理解度を高め、説得力を高めるためには、どのようなサポートデータがあれば十分か?また、それらは全て入手済みか?

これらの項目が決まれば、そのスライドを作るこれ以降の過程はほぼ単純作業です。項目1の確認で役割が見当たらない、もしくは役割がそれほどないスライドなら省く判断ができます。時間が余ったり、質問が来た場合に紹介するおまけのスライドにすればよいでしょう。項目2の論点は、スライド左上端に小さなフォントで見出しとして書くのがよいです。項目3のキーメッセージは、見出しの直下でスライド上部の一番目立つところに、大きなフォントで書きましょう。項目4のサポートデータは、キーメッセージの下の残りのスペースに配置しましょう。記載すべき内容の洗い出しはこれで終わりです。別記事「発表資料の各スライドに対する自己チェックリスト」も参考にしてください。

枚数が出揃ってきたら

上記のような内容をざっと記載したスライドが出揃ってきたら、次に意識すべきはスライド間の話の繋がりと、そのスライドの視認性です。話の論点の繋がりが悪いと聞き手の理解度と興味は著しく削がれ、その後の説明は響かなくなります(別記事「発表者の特権と義務」「論点を知り,論点を操ろう」も参照してください)。論点、キーメッセージ、サポートデータを視認して把握しにくければ、聞き手は疲れて聞くのをやめてしまいます。そうならないように、以下の項目について検討を重ねましょう。

  1. 論点はうまく繋がるか?つまり、各スライドで論点に答えを出したあと、「そうなると当然か気になるのはこれですよね」、という流れで次のスライドの論点が自然に出せるか?
  2. 各スライドの論点とキーメッセージだけを順に追うだけで、発表の落ちの導出に至る話の論理展開がわかるか?
  3. 各スライドの論点は、スライドを見た瞬間にわかるか?
  4. 各スライドのキーメッセージは、スライドを見た瞬間にわかるか?
  5. 各スライドのサポートデータは、キーメッセージをどのようにサポートしているか一目でわかるか?

項目1と2が、話の論理的道筋の良さと明確さを確認するためのチェック項目です。2つのスライドの間、つまり、スライドを切り替える瞬間にどんな繋ぎの言葉をおけばよいかをよく考えましょう。論点の紹介、論点に対する答えの紹介、繋ぎの言葉、次の論点の紹介…という繰り返しを通じて、「確かにそれは知りたい!なるほどそういうことなのか!そうなれば次は確かにそれが知りたい!それはそういうことなのか!そうなれば次は…」といったように聞き手が自然に抱く疑問を次々と解消していき、最後の結論である落ちの納得に繋げることを目指しましょう。うまい繋ぎの言葉が見当たらないようなら、スライドの順番を入れ替えることを検討しましょう。

項目3から5は、視認性についてのチェック項目です。論点とキーメッセージは言葉ではっきりと書くべきです。ただし、論点は必ずしも疑問形で書く必要はありません。例えば、「先行研究の問題」と書けば、そこでの論点は「先行研究の問題はいったい何か?」であることは明白です。キーメッセージは、その論点に対する答えであることがわかる内容にしなくてはいけません。上記の論点に対しては、「〜に重要な〜の考慮の欠如」のように、それが問題であることがわかる表現にするということです。キーメッセージを書かずに、何となく先行研究を並べたので後は察して下さい、といったようなスライドを作るのはやめましょう。キーメッセージは、意味が曖昧にならない限りは短いほどよいです。短くした分フォントのサイズを大きくすれば、より印象に残しやすくなります。サポートデータは、表なりグラフなり、図として表すのが効果的ですが、単にそれらをおけばよいというわけではなく、キーメッセージを支えるために適切な見せ方にするべきです。例えば、論点が「データAの時系列変化の計測結果」、キーメッセージが「〜の範囲で単調増加」である場合には、グラフ中の該当範囲に色をつけたり、単調増加している部分の拡大図を載せたり、増加を裏付ける近似曲線を重ねたりといった工夫が可能です。

まとめ

上記のようなチェックを通じて発表資料の論理構成が整ったら、後はそれをさらに明快にし、飽きさせないようにし、また洗練された印象にするための形式の調整によって仕上げる段階に入ります。形式の調整の仕方は別記事「わかりやすい発表資料を作るための12のポイント」「発表資料に繋がりと統一感を持たせよう」で紹介しています。

 

 

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